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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


市川崑『女王蜂』

 1978年、市川崑監督によって映画化された横溝正史原作の『女王蜂』をDVDで視聴。金田一役はもちろん石坂浩二。

 こんな話。
 昭和七年のこと、伊豆は月琴の里を訪ねてきた二人の学生、銀三と仁志。仁志はそこで知り合った大道寺琴絵という女性を愛し、やがて琴絵は妊娠してしまう。しかし仁志は母に結婚を反対され、琴絵と蔵のなかで言い合いとなる。その直後、蔵の中で頭を殴打されて殺害された仁志と、その傍らでと呆然と立ち尽くす琴絵が発見された。琴絵の仕業と思った周囲の者は、仁志が崖から転落したように偽装し、一件は事故として処理されたのだった。
 その四年後。仁志との間にできた智子とともに暮らす琴絵のもとに銀三が現れ、求婚する。かつては仁志に譲ったものの、彼もまた琴絵を深く愛していたのだった。
 月日は流れ、昭和二十七年。琴絵は若くして亡くなったが、一人娘智子は美しく育ち、今や三人の求婚者が現れるほどであった。彼らは激しくライバル心を燃やし、不穏な空気が関係者を包んでいる。やがて智子をめぐり新たな惨劇が幕をあけた……。

 女王蜂

 舞台となる場所や人名、時間軸あたりが変更されているが、まずまず原作のツボは押さえており、トータルではなかなかよくできた作品になっているのではなかろうか。
 そもそも原作がミステリとしてそこまでの傑作というわけではないのだが、それを補ってあまりあるのが動機から連なる愛憎のドラマ。ミステリゆえ完全な心理描写はご法度だが、幾人かの主要な登場人物の心情については、思わせぶり、かつ魅力的な映像で表現し、思わず引き込まれるシーンも多い。
 シリーズの他作品に比べておどろおどろした雰囲気が少ない内容だけれど、その分、現代的というか、テンポのよい構成に仕立てたのも効果的であるように思う。

 ただ、本作はファンの間ではやや評価が落ちる作品らしい。ミステリとしても犬神家、手毬唄あたりに比べれば落ちる作品なので、基本的には致し方ないところ。ただ、評価が落ちる最も大きな理由は実はそういうところではなく、タイトルの女王蜂というイメージが作品から感じ取れない部分にあるようだ。
 だいたいが女王蜂=悪女というイメージだとは思うが、本作ではそこまで強いものではなく、せいぜい男が群がる女という程度しかないところに、これを演じるのが新人の中井貴恵というのがまずかった。絶世の美女という智子のイメージに合わないばかりか、肝心の演技が実に残念。
 とはいえ、これも中井貴恵一人のせいにするのは可哀想で、そもそも脇のキャストが豪華すぎた。かつてシリーズに参加した大御所の女優陣、高峰三枝子&岸惠子&司葉子に加え、仲代達矢という大物、加えて達者な演技力を誇る草笛光子、坂口良子、加藤武、小林昭二、大滝秀治といったレギュラー陣、おまけに佐々木剛、石田信之、高野浩之という特撮ドラマのヒーロー・クラスまで顔をそろえる豪華さである。中井喜恵のまずさを差し引いても十分におつりがくるわけで、まあヒロインというところで許せない人が多いのかも知らないが、個人的には十分許容範囲である。

 ということで世評に惑わされず、ぜひお試しを、の一本。

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Comments

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くさのまさん

>そんな作品なので思い入れはあるものの、確かに出来は今一つですよね

いえいえ、個人的には豪華絢爛な女優陣、特撮ヒーロー陣共演が楽しめて、総合的には悪くないと思いますよ。

>三人目の求婚者がいつの間にか舞台から消えているのを指摘したのは都筑道夫センセーでしたか

ま、これぐらいはご愛嬌ということで。ただ、せっかくの佐々木剛=仮面ライダー2号というのが個人的には残念でした。もっと見せ場を作ってほしかったのですが(苦笑)

Posted at 23:17 on 11 24, 2015  by sugata

Edit

私のミステリ体験の原点。

 小学生の時にテレビで観た本作、特にオープニングの歯車に挟まれた腕が跳ぶシーンがなければ今の自分はありません(笑)。
 そんな作品なので思い入れはあるものの、確かに出来は今一つですよね(三人目の求婚者がいつの間にか舞台から消えているのを指摘したのは都筑道夫センセーでしたか)。
 原作ではアリバイに一役買っていたものが、映画では密室になっていたのが興味深かったです。
 音楽は石坂金田一の中でも『犬神家~』と並ぶ傑作だと思います。

Posted at 07:34 on 11 24, 2015  by くさのま

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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