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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

『このミステリーがすごい!』編集部/編『このミステリーがすごい!2016年版』(宝島社)

 週刊文春、ミステリマガジンのベストテンに続いて、『このミステリーがすごい!2016年版』を購入。例によって海外編のみ目を通すと、1位の『スキン・コレクター』をはじめとして、案の定ほとんどの作品がかぶっており、昨年あたりから顕著になってきたランキングの同一化はますます進んでいるような印象だ。

 このミステリーがすごい!2016年版

 しかし印象だけではなんなので、今回は各ランキングの20位までを見比べてみることにした。ついでに平均順位も。データの正確性をできるだけ高めるために、このミスでしか発表していない20位以下は割愛。あくまで20以内にランクインしている作品のみ対象にしている。また、ランキングによって対象となる刊行時期が異なるため(ミステリマガジンのみ1ケ月早いのである)、1つしかランクインしていないものは省き、2つのランキングにランクインしているもののみ取り上げている。

2016年ランキング

 で、その結果がこちら。
 ミステリマガジンでは刊行時期の対象になっていない『悲しみのイレーヌ』と『スキンコレクター』が1位を分け合っている。ミステリマガジンのみ『ありふれた祈り』なのだが、この上位二作品がミステリマガジンでも対象になっていれば、ランキングはますます似たような結果になったことだろう。
 下位ランクになれば多少のばらつきはあるが、まあベストテンあたりまでは本当にそっくりで、この傾向はここ数年で一気に加速した感があり、これではわざわざ三つもランキングを発表する意味がない。少なくとも以前は、このミスと文春に関してはきっちりと違いがあって比較するのも面白かった。そもそもこのミス誕生のきっかけが、文春ランキングに対する批判精神から出たことを思うと寂しいかぎりだ。
 昨年も書いたが、原因はやはり情報の共有化が進みすぎていること、また、これは調べてみないとわからないが、ランキングの投票者がかなりかぶっているのではないかということも考えられる。
 まあ、所詮遊びなんだけれど、遊びだからこそ真剣にやってほしい。

 あと、今年だけの問題でもないのだが、ミステリマガジンの対象期間だけはなんとかしてほしい。
 そもそもどれも2016年版と謳っているのだから、本来は2015年中に刊行された作品が対象になっていなければならない。しかし商売上、他社よりも早く出したいのだろう。文春とこのミスは10月末までが対象で、これだって11月12月の作品は来年度にこぼれるというのに、ミステリマガジンに至っては9月末で締めている。おかげで他のランキングではワンツーフィニッシュの圧倒的二作品がミステリマガジンでは欠片も触れられていないという始末。
 版元も暮れにかけて目玉作品を出すところは多いと思うのだが、それがせっかくのランキングに載らないのはもったいない話で、なんのためのランキングなのかよくわからなくなってくる。来年度版に載るからいいじゃないか、なんてのは単なる言い訳にすぎず、2016年版というなら2016年に出た作品でやってくれよというシンプルな話である。読者にとっては迷惑でしかない。

 『このミステリーがすごい!2016年版』に話を戻すと、こちらもいっこうに士気が上がらない。ここ数年の劣化は目に余るものがあり、企画ものはほとんどなし。作家と出版社の隠し球ぐらいしか読むところがない。
 ランキング載せてよしとするならネットや雑誌でいいものなぁ。なんでこんなにしょぼくなったのかなぁ。

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Comments
 
KSBCさん

いや、全然精力的じゃないですよ(笑)。右上にあるカレンダー見てもらえればわかりますが、このところはすっかり週末ブロガーで、平日の更新は至難のワザです。むしろ週末ぐらいこれやらないと、逆にストレスで体を壊してしまいます。

このミスはなんと言ってよいのやら。確かにあの金額で出すのは評価できるんですけど……。正直、初期のこのミスとは雲泥の差がありますね。

>気候が不安定です、ご自愛ください。

ありがとうございます。KSBCさんこそご無理なさらずに。
 「バカミス」くらいは
こんにちは、精力的なBlog更新に圧倒されております。
こちらは、さっぱりです。
「このミス」の劣化の進み具合には、全くの同感です。海外ランキング以外は、「隠し玉」だけです。
価格を下げて、合わせて編集のコストを抑えたために企画に労力が割けなくなった…?

まあ、他ではなかった「バカミス」くらいはやってほしいものです(笑)。

気候が不安定です、ご自愛ください。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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