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 『快楽亭ブラック集 明治探偵冒険小説集2』を読む。この明治探偵冒険小説集シリーズでは黒岩涙香、押川春浪を以前に読んでいるが、なんといってもこの巻が一番の異色作だろう。
 快楽亭ブラックは明治時代に活躍したオーストラリア出身の落語家である。ジャーナリストの父と共に六歳で来日し、成長してからは父の新聞事業を手伝うなどしていたが、日本文化に触発され、講談師を経て落語家になったという変り種。当時はその珍しさもあってか大人気を集めたという。

 ただ、青い目の噺家という珍しさはもちろんあったのだろうが、その演目も人気の秘密ではなかったか。ブラックは欧米の小説から材をとって、それをアレンジした形で演じていたのである。ことにブラックは探偵小説がお好みだったらしく、演目には犯罪や冒険要素を絡めた人情話が少なくない。
 本書はそんな探偵小説寄りの演目を収録したブラックの作品集である。収録作は以下のとおり。

「流の暁」
「車中の毒針」
「幻燈」
「かる業武太郎」

 快楽亭ブラック集 明治探偵冒険小説集2

 ブラックの作品は、基本的にすべて口述筆記。噺自体はブラック自身が考案しているのだろうが(まあ元ネタは小説なんだけれど)、自分で書くことはしない。ブラックの噺を横で速記者が書き起こしていくというスタイルである。
 当時はそれこそ黒岩涙香らの翻案小説が人気を集め、ちょっとした探偵小説ブーム。ブラックの本もなかなかの人気だったようで、wikiによると八冊ほどが出版されているからすごい。
 ただ、当時はともかく、今読むとこの口述筆記というやつが曲者である。噺家の場合、文章を引っ張るというかセンテンスを句点できっちり切らず、そのまま重ねていくことが多いのである。聞いている分には声のトーンや演技も入るのでいいのだろうが、字面を追っていくのは慣れるまでが少し難儀。まあ、この時代の作品にありがちな文語体でないのは助かるが。
 あとは当時の翻案小説の類ではよくあるパターンだけれど、海外を舞台にしているのに登場人物はなぜか日本人というのも気になる人は気になるだろう。名前ぐらいならいいが、地の文でも日本前提のような描写が出てきたり、違和感のレベルはなかなか高い。まあ解説ではこれもまた魅力と書いているように、こういうのは楽しんだ者勝ちだろう。
 ちなみに挿絵もいくつか収録されているが、こちらも舞台は英国なのに日本としか思えない建物や衣服が描かれていて、もうとことんカオスである(苦笑)。
 
 以下、作品ごとの感想など。
 「流の暁」は英国に亡命していたフランス貴族が、英国で娶った妻を捨ててフランスに帰国するというのが導入部。残された妻は双子を産むも、貧しさから一人を捨ててしまい、その子は漁師に助けられる。やがて、捨てられた子は立派な若者に成長し、偶然から母と弟に再会するも、ヤクザ者になっていた弟のため犯罪に手を染める羽目に……という一席。
 真面目なはずの青年が犯罪者へ転落していくという展開が切ない。最初は仕方なしの窃盗だったが、ヤクザ者の弟を殺害し、フランスに逃げる頃にはすっかり悪人的な立ち振る舞いになっている。最後には改心して両親と和解するも、カタルシスに欠けていまひとつである。
 弟を殺害する際の偽装手段やその見破られ方は非常に探偵小説的なのだが、その点については恐ろしいぐらいサラッと流されているのが残念。ここを膨らませるだけでも、かなりそれっぽくなるだけに惜しい。

 「車中の毒針」は乗り合い馬車での殺人という導入が、まるでホームズ譚でも読むかのようで魅力的。ただし探偵役も登場するのにその方向ではあまり引っ張らず、結局は犯罪者側からの物語になってしまう。日本のこの時代の物語にそれを求めても無理なのはわかってはいるが、結局は犯罪者もしくは被害者の物語になってしまうんだよね。

 その点「幻燈」はいい。本書中ではもっとも気に入った作品である。
 ロンドンの銀行頭取が殺害されるが、容疑は頭取が以前に引き取った元乞食の青年に向けられる。不利な状況を救ったのは頭取の弟弁護士だった……。
 序盤は青年と頭取の出会いについて語られるが、そこを過ぎるとかなり探偵小説的様相を見せるのがいい感じ。もちろんトリックとかのレベルでは語れないが、その謎解きのスタイルは論理的だしハッタリも効いていてなかなか魅せる。

 「かる業武太郎」はかなり冒険小説寄りの物語。父殺しの犯人を追い、逆に罠にはまる娘というのがある意味王道。こういうのは時代関係なしにウケるのだということを再認識できた(笑)。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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