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 フェルディナント・フォン・シーラッハの『カールの降誕祭』を読む。このところシーラッハは長編の紹介が続いていたが、本書は昨年の11月に刊行された久々の短編集。しかもシーラッハ流のブラックなクリスマス・ストーリー集である。
 収録作は以下のとおり。

Der Bäcker「パン屋の主人」
Seybold「ザイボルト」
Carl Tohrbergs Weihnachten「カールの降誕祭(クリスマス)」

 カールの降誕祭

 「パン屋の主人」はなんと長編『コリーニ事件』のスピンオフ作品。『コリーニ事件』にも登場したパン屋の主人が日本人女性に恋をし、まとまなパン屋ではなくなってしまった顛末が語られる。静かに、静かに壊れてゆくパン屋のセリフが怖い……。本書中のベスト。

 「ザイボルト」は公明正大、規律正しく生きてきた裁判官の物語。完全なる小宇宙のなかで暮らしてきた彼はルーティンありきの人生なのだが、退職後、それを外したばかりに混沌の世界へ引き込まれる。「パン屋の主人」とは真逆のようで、実は裏表のような作品ではないか。それにしてもシーラッハの描き方は容赦がない。

 表題作「カールの降誕祭」も印象的。ドイツではクリスマスに最も殺人が多い、それは会いたくない家族に会うからだという。本作はまさにそれを地でいく作品で、舞台は十世紀から続く貴族トーアベルク家。カールは上っ面の価値観に押しつぶされそうになりつつ、芸術によって自分をなんとか支えていく。しかし、ついにクリスマスの当日……。
 わかりやすい物語だが、それだけにやや物足りなさも残る。他の作品と違い、語りすぎなのかもしれない。

 相変わらずシーラッハの筆さばきが見事である
 どの作品も一見はごく普通の男が主人公。そんな男たちが犯罪を起こすに至った過程を淡々と描いてゆく。冷たくモノトーンのような文体も健在で、心理描写をできるだけ排しているのもいつもどおり。主人公たちの行動だけが積み重ねられ、そこから動機の気配のようなものが炙り出されてくる。これもあくまで”気配”だけで、ストレートには描かない。それがかえって読み手に強い余韻を残すのである。
 だからこそ語りすぎの作品が少々物足りなくなる。読み終えた後、胸に広がる得体の知れない不安。それを感じたいからこそシーラッハの作品を読むのだ。

 さて、とりあえず喉の渇きは潤せたが、短編三つではさすがに『犯罪』や『罪悪』の満足感には及ばない。著者もこれは第三短編集ではないと言っているようなので、とりあえずは第三短編集の刊行を待ちたいところである。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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