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ハリー・カーマイケル『リモート・コントロール』(論創海外ミステリ)
論創海外ミステリからハリー・カーマイケルの『リモート・コントロール』を読む。
本邦初紹介となる作家だが、本国(英国、ただし出身はカナダ)では50年代から70年代にかけて活躍し、八十五作ものミステリ長篇を残したというから、なかなかの人気作家だったことがうかがえる。興味深いのはハリー・カーマイケル名義で本格ミステリ系の作品、ハートリー・ハワード名義でハードボイルド系の作品と、二つのペンネームを駆使してジャンルも使い分けていたこと。まあ、多作家になるほどジャンルをまたぐことも多いが、ここまで律儀に分ける人も珍しい。
ま、それはともかく本作『リモート・コントロール』は本格ミステリ系の作品。オビには”D・M・ディヴァインを凌駕する”という景気のよいキャッチが踊り、なかなか期待できそうな雰囲気である。
そして期待できそうな理由が実はもうひとつ。それはかつてミステリマニアのM・K氏が出した私家本『ある中毒者の告白~ミステリ中毒編』という海外の古典ミステリをレビューした本があって、そこでカーマイケルを高く評価しているのである。ちなみに本書の解説もこのM・K氏(解説の名義は絵夢恵)が担当している。
新聞記者のクィンはある日立ち寄った酒場で、顔見知りのメルヴィルに出会う。妻を迎えにいくと言い残して帰っていたメルヴィルだが、その夜、彼は妻を乗せた自動車で、散歩中の男性をはねて即死させてしまう。その結果メルヴィルは、酒酔い運転で十八ケ月の禁固刑を言い渡される。
その半年後、クィンのもとにメルヴィルの妻から連絡があった。実は車を運転していたのは彼女だというのだ。一体どうすればいいのか相談する彼女だが、クィンにはどうすることもできず、そのままにしておくべきではないかと助言する。ところがしばらくして、メルヴィルの妻が謎のガス中毒死を遂げる。
自殺か事故か殺人か。やがて容疑がクィンにかかり、クィンは親友のバイパーに調査を依頼する……。

おお、これはいいじゃないか。その作風やスタイルは確かにディヴァインを彷彿とさせる。要は英国らしい、しっとりとした上質の本格ミステリということ。
探偵役のパイパーは事件関係者に丹念に聞き込みを続け、被害者や事件に巻き込まれた関係者の心理を少しずつ紐解いてゆく。そこから浮かび上がるのは事件の真相だけでなく、秘められた人間模様や心の闇なのである。
その過程が謎解きとほどよくミックスされて楽しめるかどうか。あくまで個人的な考えだが、いわゆる英国本格ミステリ(特に戦後のもの)の肝はその点にこそあり、本作はそれをきっちりと満たしている作品なのだ。
謎解きものとしての出来やサプライズもこれぐらいやってくれれば十分。材料そのものが少ないので真相はやや予測がつきやすいものの、物語に引き込む力が強いので、きちんとした正解を導くのはそれほど簡単なことではない。
正直、本作だけでは”D・M・ディヴァインを凌駕する”は言い過ぎだけれど(苦笑)、ディヴァインのファンならまず読んで失望することはないだろう。このレベルであれば次もどんどん出していってほしいものだ。
なお、探偵役のパイパーとクィンはシリーズキャラクターとのことなので、シリーズを通してはこの二人の関係性も読みどころのひとつだそうな。それも含めて要注目である。
本邦初紹介となる作家だが、本国(英国、ただし出身はカナダ)では50年代から70年代にかけて活躍し、八十五作ものミステリ長篇を残したというから、なかなかの人気作家だったことがうかがえる。興味深いのはハリー・カーマイケル名義で本格ミステリ系の作品、ハートリー・ハワード名義でハードボイルド系の作品と、二つのペンネームを駆使してジャンルも使い分けていたこと。まあ、多作家になるほどジャンルをまたぐことも多いが、ここまで律儀に分ける人も珍しい。
ま、それはともかく本作『リモート・コントロール』は本格ミステリ系の作品。オビには”D・M・ディヴァインを凌駕する”という景気のよいキャッチが踊り、なかなか期待できそうな雰囲気である。
そして期待できそうな理由が実はもうひとつ。それはかつてミステリマニアのM・K氏が出した私家本『ある中毒者の告白~ミステリ中毒編』という海外の古典ミステリをレビューした本があって、そこでカーマイケルを高く評価しているのである。ちなみに本書の解説もこのM・K氏(解説の名義は絵夢恵)が担当している。
新聞記者のクィンはある日立ち寄った酒場で、顔見知りのメルヴィルに出会う。妻を迎えにいくと言い残して帰っていたメルヴィルだが、その夜、彼は妻を乗せた自動車で、散歩中の男性をはねて即死させてしまう。その結果メルヴィルは、酒酔い運転で十八ケ月の禁固刑を言い渡される。
その半年後、クィンのもとにメルヴィルの妻から連絡があった。実は車を運転していたのは彼女だというのだ。一体どうすればいいのか相談する彼女だが、クィンにはどうすることもできず、そのままにしておくべきではないかと助言する。ところがしばらくして、メルヴィルの妻が謎のガス中毒死を遂げる。
自殺か事故か殺人か。やがて容疑がクィンにかかり、クィンは親友のバイパーに調査を依頼する……。

おお、これはいいじゃないか。その作風やスタイルは確かにディヴァインを彷彿とさせる。要は英国らしい、しっとりとした上質の本格ミステリということ。
探偵役のパイパーは事件関係者に丹念に聞き込みを続け、被害者や事件に巻き込まれた関係者の心理を少しずつ紐解いてゆく。そこから浮かび上がるのは事件の真相だけでなく、秘められた人間模様や心の闇なのである。
その過程が謎解きとほどよくミックスされて楽しめるかどうか。あくまで個人的な考えだが、いわゆる英国本格ミステリ(特に戦後のもの)の肝はその点にこそあり、本作はそれをきっちりと満たしている作品なのだ。
謎解きものとしての出来やサプライズもこれぐらいやってくれれば十分。材料そのものが少ないので真相はやや予測がつきやすいものの、物語に引き込む力が強いので、きちんとした正解を導くのはそれほど簡単なことではない。
正直、本作だけでは”D・M・ディヴァインを凌駕する”は言い過ぎだけれど(苦笑)、ディヴァインのファンならまず読んで失望することはないだろう。このレベルであれば次もどんどん出していってほしいものだ。
なお、探偵役のパイパーとクィンはシリーズキャラクターとのことなので、シリーズを通してはこの二人の関係性も読みどころのひとつだそうな。それも含めて要注目である。
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