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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


市川崑『病院坂の首縊りの家』

 市川崑、石坂浩二コンビによる金田一シリーズ最終作『病院坂の首縊りの家』を視聴。

 渡米を考えていた金田一耕助は、その報告のため先生(横溝正史)のいる吉野市を訪れていた。ついでにパスポートの写真を撮るために立ち寄った写真館で、店の主人・本條徳兵衛から奇妙な依頼をされる。何者かに殺されそうになったので、その調査をしてほしいというのだ。
 同じ日、写真館に一人の女性が訪れる。結婚写真を撮りたいので、迎えの者をやるから一緒にきてほしいという。その夜、若主人の本條直吉が迎えの男とともに向かった先は、地元で病院坂と呼ばれるところにある今は空き家の家であった。新郎新婦らしき男女の様子がおかしいものの、とりあえず仕事をこなす直吉。だが、後日、写真を届けにいった直吉は、新郎だった男の生首が風鈴のようにぶらさがっているのを発見する……。

 病院坂の首縊りの家

 正直、原作の内容をほとんど覚えていないのだけれど(苦笑)、それが逆によかったのか、けっこう楽しめた。
 シリーズの他の作品よりは評価が落ちるようだけれども、おそらくこれは作品をイメージづける印象的なシーンが弱いことが大きいのではないか。また、原作がもともと長大で複雑なのだが、それを映像化するにあたってどうしても脚本に無理が出てきてしまったこともあるだろう(といっても140分近くあるのだが)。
 とはいえ、それらはシリーズの他の作品に比べるからで、この作品を独立したミステリ映画とみるなら、決してまずい作品ではない。例によってテーマとなるのは古い因習や家、血にしばられた悲しき宿命である。とりわけ本作はわかりにくい設定ではあるのだが、ここまで再現してくれれば何とか合格点だろう。特に謎解きシーンではかなりの時間を費やし、事件の全容を示すとともに、ドラマとしての盛り上げ方も悪くない。

 キャストでは佐久間良子や桜田淳子、草刈正雄の熱演も印象的、桜田淳子の演技も予想以上によかったが、やはり佐久間良子の存在感は圧倒的。こういうウェットな役柄は実に見事である。
 なお、原作は金田一耕助の最後の事件として知られているが、映画のほうもこれで打ち止め感を強く出していて、所縁の俳優さんが多く登場しているのが感慨深い。小林昭二や三木のり平、大滝秀治、草笛光子、あおい輝彦、ピーター、中井貴惠等々。おまけに横溝正史までがけっこうな役どころである。

 ま、そんなわけで個人的には全然OKの一作でありました。

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Comments

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上村さん

まあ、確かにテレビで二夜連続放映とか、映画でも半年あけて二部作とか、あるいはテレビと映画で二部作とか最近多いですね。ただ自分の場合は、分断されると興味が続かないというか。小説でも全何巻とかいうのは飽きてきますね(苦笑)。

>稲垣金田一などまさにこのパターンでやってほしかったのですけど、

稲垣金田一は実は見たことないのですが、けっこう原作に忠実で評判がいいんですね。DVDやBDとかが出れば観てみたいものです。

Posted at 23:47 on 02 09, 2016  by sugata

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こんにちは。
「病院坂」や「悪霊島」のようなロングな作品こそ
連ドラで何回かやって後半を映画へなだれこむみたいなのがよかったと思うんですが、
この当時はまだそんな発想はなく、TVから映画へという流れになるのはもう少し後のことでしょうか。

稲垣金田一などまさにこのパターンでやってほしかったのですけど、
例のSMAP騒動でもう稲垣金田一の復活の線は完全に断たれてしまったぽいですねえ。
せめて「本陣」「獄門島」だけは作ってほしかったですが。

Posted at 18:05 on 02 09, 2016  by 上村

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黒田さん

そうなんですよね。謎解きからラストに至る終盤の30分余りが実によくて、これでもかというぐらい名シーンを畳み掛けてくるのがなんともいえません。
唯一、等々力警部の写真乾板を知らんぷりするのが、ちょっと突然すぎてやりすぎかなとも思いましたが(苦笑)。

Posted at 23:43 on 02 08, 2016  by sugata

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めとろんさん

市川崑監督の金田一で『病院坂の首縊りの家』が一番好きという方は珍しいですね。実は私もけっこう好みで、おどろおどろしさは他の作品に一歩譲りますが、原作では二部構成の話をうまくまとめているなと感心しました。

>いつも、勉強させて頂いております。

何を仰いますやら。拙ブログの浅さなど、めとろんさんのブログにとうてい敵うところではありません。私は私のレベルで細く長く続けていきますので今後ともよろしくどうぞ。

Posted at 23:42 on 02 08, 2016  by sugata

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原作が大長編だけに‥‥

 原作は2回読みましたが、どうも作品世界に没頭できず、映画版に至ってはテレビ放送で1度みたキリでした……。
 なので、非常に怪しい感想ですが、映画版では「血の宿命」という点が原作より強調されていたように感じ、映画最終作らしいボリュームだった気がします。
 石坂金田一の(事実上の)最終作という事もあり、レビュー内の「謎解きシーンではかなりの時間を費やし、事件の全容を示すとともに、ドラマとしての盛り上げ方も悪くない」という一文、映画版を見終えた私の感想と同じで嬉しく感じました(そう感じられても、sugataさんは嬉しくないかも知れませんがw)。

 強引な見方かも知れませんが、写真の原盤を砕いて諸悪の元凶を葬る金田一の姿は「これで僕も犯罪捜査から身を引こう」というメッセージが感じられました。
 人力車の中で息絶えた薄幸の女性と彼女の死を無言の涙で追悼する老人の対比も見事な映像美でラストシーンに相応しい『静謐な美』が見られました。

 レビューを読み、原作は無理でも、映画版くらいは再チェックしてみたくなりました! 情熱が保てれば(汗)

Posted at 12:08 on 02 08, 2016  by 黒田

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大好きな作品です

おお、『病院坂の首縊りの家』!

現在、私の一番好きな市川崑監督の金田一映画です。
何ででしょう(笑)
いろいろな意味で、他の作品に比べて原作から自由だから…のような気がします。監督にかなりシゴかれたという桜田淳子さんの妖艶さ、草刈正雄さんのユーモラスな演技や、横溝先生のメイ演技はもちろん、やはりラストの小林昭二さんがたまりません。

いつも、勉強させて頂いております。これからの更新も楽しみに読ませて頂きます♪


Posted at 11:03 on 02 08, 2016  by めとろん

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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