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 エドガー・ウォーレスの『淑女怪盗ジェーンの冒険』を読む。
 二十世紀初頭の大ベストセラー作家エドガー・ウォーレスだが、まあ売れっ子の宿命というか、当時の批評家からはケチョンケチョン(死語)にけなされていたようだ。だがウォーレスの目指していたものは芸術ではなく、大衆のリクエストに最大限に応えることである。したがってテーマの深遠さや複雑な人物造形がないことをいちいちあげつらっても仕方ない。見るべきところはネタの幅広さやストーリーの面白さ。さらに言うなら読者が興味を持てるかどうかだ。 
 実際、近年に邦訳された『正義の四人/ロンドン大包囲網』などもアイディアやストーリーはそれほど悪いものではなかった。
 本作では女怪盗を主人公にした物語ということで、そういう意味ではけっこう期待できそうな感じもないではないが、果たして?

 ロンドンにすむ富豪たちの間で噂の女怪盗がいた。その名もフォー・スクエア・ジェーン。盗みをはたらいた証に、”J”と記された四角いカードを現場に残していくのがその由来だ。盗んだ金は病院などに寄付しており義賊だという見方もあるが、その正体はまったく謎に包まれていた。
 そんなある日、資産家ルインスタインの屋敷で豪華なパーティが催されることになった。ルインスタインはジェーン対策としてロンドン最大の私立探偵事務所でも最高の女探偵を雇ったが……。

 淑女怪盗ジェーンの冒険

 前半はジェーンの盗みの手口がいくつかの事件を通して披露される。連作短編集のような形式かと思っていると、徐々に趣が変わってきて、後半はジェーン自身のドラマが展開する。
 なるほど、こういうところがベストセラー作家の巧さなんだろうなと思う。
 盗みの手口はまあ悪くはないけれど、トリックメーカーではないのでそれほど引き出しがあるわけではない。そこで盗みのほうは印象的な事件を二つ三つほど見せて切り上げ、後半はキャラクターを活かしたスリラー劇に転換させていく。
 ここで読者をひっぱるのはジェーンの正体だ。これが実はバレバレなんだけど、表面的には隠しておきながらバレバレにすることで、読者にははっきりとヒロインが認識できるという仕組み。並行してジェーンがなぜ怪盗になったのか、その動機も読者の大きな興味のひとつとなり、読者はさらに感情移入ができる。
 まあ時代が時代なのでサスペンスの盛り上げとかはゆるいレベルだが、この時代のエンターテインメントとしてはOKだろう。

 なお、本書には『三姉妹の大いなる報酬』というコメディタッチの短編も併録されている。ミステリタッチではあるけれど、こちらはさほど面白みを感じられず、短編にしてはやや長いのも辛かった。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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