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ジョルジュ・シムノン『小犬を連れた男』(河出書房新社)
久しぶりに河出書房新社の「シムノン本格小説選」から一冊。ものは『小犬を連れた男』。
メグレシリーズもよいし、根本的なところは同じだと思うのだが、それでもミステリから離れたノンシリーズになると、シムノンのペン先はより悲哀を帯びたものになる。それはやはり犯罪者に対するメグレからの客観的な視点と、主人公たる犯罪者の視点の差なのだろう。
本作もその例にもれず、その内容はあまりに切なく悲しい。
パリの街の片隅でプードルと暮らす孤独な一人の男。他人との積極的な接触を避け、プードルと散歩し、小さな本屋で店番のアルバイトを繰り返す日々。そんな彼が文房具店でノートを買い、今の境遇や心情、そして過去に起こった出来事を淡々と綴ってゆく……。

シムノンらしいといえばここまでシムノンらしい小説もないかもしれない。孤独な男の手記を通じて、男の暮らしぶりや、なぜこのような生活を送っているのかが語られてゆく。犬を飼い始めたきっかけ、本屋のアルバイト始めた理由、男が刑務所に入っていたらしいこと、家族がいるらしいことなどなど。そんなこんなが時系列など関係なしに、少しずつ明らかになってゆくという結構である。
そして最終的な興味は、男が何をしでかしたのか、また、その動機は何だったのか、この点に集約される。
もちろん今時こんなスタイルは珍しくもない。ただシムノンの巧いところは、過去と現在を往きつ戻りつしながら、その淡々とした口調のなかに男の心情を見え隠れさせるところにある。長編でありながら一瞬一瞬が勝負のようなところもあり、そのたびにこちらはページをくる手を休め、深いため息をつくことになる。
本屋の女店主との問答、愛犬ピブとの他愛ないやりとり、それらすべてが愛おしい。シムノンのファンならぜひ。
メグレシリーズもよいし、根本的なところは同じだと思うのだが、それでもミステリから離れたノンシリーズになると、シムノンのペン先はより悲哀を帯びたものになる。それはやはり犯罪者に対するメグレからの客観的な視点と、主人公たる犯罪者の視点の差なのだろう。
本作もその例にもれず、その内容はあまりに切なく悲しい。
パリの街の片隅でプードルと暮らす孤独な一人の男。他人との積極的な接触を避け、プードルと散歩し、小さな本屋で店番のアルバイトを繰り返す日々。そんな彼が文房具店でノートを買い、今の境遇や心情、そして過去に起こった出来事を淡々と綴ってゆく……。

シムノンらしいといえばここまでシムノンらしい小説もないかもしれない。孤独な男の手記を通じて、男の暮らしぶりや、なぜこのような生活を送っているのかが語られてゆく。犬を飼い始めたきっかけ、本屋のアルバイト始めた理由、男が刑務所に入っていたらしいこと、家族がいるらしいことなどなど。そんなこんなが時系列など関係なしに、少しずつ明らかになってゆくという結構である。
そして最終的な興味は、男が何をしでかしたのか、また、その動機は何だったのか、この点に集約される。
もちろん今時こんなスタイルは珍しくもない。ただシムノンの巧いところは、過去と現在を往きつ戻りつしながら、その淡々とした口調のなかに男の心情を見え隠れさせるところにある。長編でありながら一瞬一瞬が勝負のようなところもあり、そのたびにこちらはページをくる手を休め、深いため息をつくことになる。
本屋の女店主との問答、愛犬ピブとの他愛ないやりとり、それらすべてが愛おしい。シムノンのファンならぜひ。
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