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 飽きもせず、ひとり中町信祭り。本日の読了本は『女性編集者殺人事件』である。
 もとは日本文華社から刊行された『殺戮の証明』が、ケイブンシャ文庫で刊行される際に改題された作品。著者の長篇第三作目にあたり、力作を連発していた初期に書かれた作品である。

 こんな話。医学系出版社の南林書房では労働争議の真っ最中。年末一時金の額で無茶な要求をする労働組合側と、びた一文増やすことはできないという会社側の主張が真っ向から対立していたのだ。
 組合側の闘争手段はエスカレートし、時間外勤務拒否、外出拒否、電話応対拒否などは当たり前、社内中に管理職の写真入りで誹謗中傷を書いたステッカーまで貼る始末である。その組合の急先鋒が、先頭に立って誹謗中傷を繰り広げる組合員の久我富子だった。
 そんな中、久我富子が電話交換室に乱入し、かかってきた電話を勝手にとって盗聴するという暴挙を犯す。すると彼女はなぜか笑みを浮かべ、そのままエレベーターで六階に上がっていったのだが、次に発見されたときは絶命寸前の状態だった。そして今際の際に彼女は、自らの血で犯人のヒントらしきものを書き記すが……。

 女性編集者殺人事件

 ううむ、才気ほとばしる初期の作品群にあって、あまり話題に上ることのない本作だが、それもむべなるかな。『〜の殺意』や最近読んだ『田沢湖〜』『奥只見〜』に比べれば明らかに一枚落ちる出来である。
 一番の弱点はやはりメイントリックの弱さだろう。本作ではダイイングメッセージとアリバイトリックの二つが大きな肝になるのだが、どちらも長篇をひっぱるほどのネタではなかろう。特にダイイングメッセージはほぼ瞬時にネタがわかってしまった。実はこのダイイングメッセージ、最初の種明かしからさらにもう一捻りあるのだけれど、二つ目の真相に無理がありすぎで、むしろ最初の種明かしで止めた方がよかったのではと思える始末だ。

 なお、ミステリとしてどうこうではないのだが、労働争議の描写については非常にインパクトがあった。物語の舞台は1970年代後半になるが、当時の会社と組合の交渉がここまで熾烈を極めていたとはちょっと信じがたいほどである。
 基本的には組合側の闘争手段が徹底したサボタージュと管理職への個人攻撃であり、特に後者が凄まじい。これがどこまで一般的だったのか、管理人もちょっと判断できないのだが、いや今これやったら明らかに訴訟ものだろう。もちろん創作なので著者が話を盛っている可能性はあるわけだが、いやあ、この毒気は相当なものだ。

 まとめ。本格に対する著者のこだわりというか、いろいろやりたかったであろうことは伝わってくるが、全体的には小粒で物足りない。労働争議の描写のきつさも含めておすすめしにくい一作といえる。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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