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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


ロジャー・スカーレット『白魔』(論創海外ミステリ)

ロジャー・スカーレットは生涯で五作の長編を残したアメリカのミステリ作家。乱歩が愛した作家であることや、ドロシー・ブレアとイヴリン・ ペイジという二人の女性の合作ペンネームであることも今ではよく知られた事実だろう。ひと頃は完全に幻の作家扱いだったが、本作『白魔』によって、遂に全長編が読めるようになったのだから感慨深い。
 と思ったらAmazonでは肝心の『エンジェル家の殺人』が品切れ中ではないか。なんやそれ。

 ま、それはともかく。『白魔』である。
 舞台はボストンの高級住宅地にあるクインシー邸。クインシー夫妻は部屋を下宿として提供して、十人近い間借り人とともに暮らしていた。しかし人集まるところにトラブルあり。母親と暮らしているアーサー・ブレンダーガストは、帰宅すると部屋中が荒らされていたため、警察に連絡を入れる。さっそくケイン警視が訪ねると、アーサーは屋敷の人間が嫌がらせのためにやったことだと訴えるが、興奮が冷めると、今度は警察に連絡したことを詫びるのだった。
 翌日の夕方、昨日の事件が腑に落ちないケイン警視は再びクインシー邸を訪ねるが、そこには殺害されたアーサー・ブレンダーガストの姿が……。

 白魔(論創社)

 スカーレットお得意の館もの。クインシー邸で暮らす人々が登場人物のほぼすべてであり、その中で展開されるフーダニットである。ケイン警視たちが地道に証言を集め、推理を重ね、それにしたがって徐々に明らかになる人間関係や事実など、いかにも古典本格ものという雰囲気が好ましい。
 また、オーソドックスな構成ながら、前半で犯人を明らかにしつつ実はその正体が……という展開は面白く、そこから一気に物語に引き込まれてゆく。
 ただ、ロジャー・スカーレットの作品は全体的にあっさり目というか、ややインパクトに欠けるのが残念だ。贅沢さえ言わなければ普通に楽しめるけれど、本作は著者の他の作品に比べてもやや落ちる感じである。

 少し気になったのは犯人像。1930年としてはなかなか興味深い設定であり、今の時代なら間違いなくそちら方面のネタで引っ張りそうだが、時代ゆえかあっさり片付けているのがもったいない。ここを濃いめにしてケイン警視と犯人の対決色を前面に出せば、けっこうインパクトを残せたかも。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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