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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


レックス・スタウト『シーザーの埋葬』(光文社文庫)

 翻訳ミステリの不振が言われるようになって久しいが、それでも見方を変えれば日本はミステリ大国といってもよいように思う。流行りものだけでなく古典や本格も熱心に読まれているし、お国柄、ジャンルも問わない。本国ではあまり読まれなくなった作家、例えばクイーンやヴァン・ダイン、クロフツ、カーなんかの大御所も今では日本の方がはるかに読まれているし、新しいところでは『二流小説家』がヒットしたデイヴィッド・ゴードンなども日本の方がはるかに売れたらしい。

 ことほどさように海外ミステリを支えている日本のミステリ・ファンやマニアだが、やはり例外はあるようで。
 黄金時代の作家がさっぱり読まれなくなった本国でもいまだに絶大な人気を誇るレックス・スタウトが、なぜか日本では人気がない。いまだに未訳や単行本化されていない作品も多く、同時代のクイーンやカーの紹介に比べるとずいぶんな状況だ。それでも一時期は思い出したようにポケミスで紹介が進められていたようだが、案の定、今は中断してしまっている。
 とりたてて不人気の理由は思い浮かばないのだが、他の作家のように「これだ」という決定的な作品がないため、紹介が自然と後回しになり、そのまま歴史に埋もれていった可能性はあるかもしれない。近年のポケミスでの紹介はありがたかったけれど、潜在的な読者にその魅力がちゃんと届いていたかどうかは疑問である。映画化とか大掛かりなフェアを仕掛けるとか、何か大きなきっかけが必要だろう。

 と、憂いてみたりしたものの、実は管理人も恥ずかしながらレックス・スタウトは数作しか読んでいない。まあ、当然読むべき作家であるし、買ってはいるのだが、やはり後回しにしてしまうのである。上でも書いたようにどれから読めというわけでもないし、他の黄金時代の作家のように派手なトリックが売りでもない、むしろキャラクターの魅力で読ませるところが大きいので、まあいつ読んでもいいかなと(笑)。で、これではいかんと本日の読了本は、巨漢の安楽イス型名探偵ネロ・ウルフもの『シーザーの埋葬』である。

 シーザーの埋葬

 こんな話。ネロ・ウルフはアーチー・グッドウィンの運転で一路、クロウフィールドを目指していた。目的は北部大西洋沿岸共進会での蘭の展示である。ところが車のトラブルで二人はある農家に泊まることになり、タイミングが悪いことに、その地では一頭の牛をめぐって二つの家族が対立している最中だった。おまけにその夜、一方の家の息子が死亡する。状況から牛の角に刺されて死んだように見えたが、その牛もなぜか急死してしまい……。

 旧家と新興の一族との対立をベースにしつつ、実は家族それぞれに思惑が入り混じるという複雑な状況で、さすがのウルフとアーチーも最初は傍観者に徹している。ところが死体の出現とともに流れが変わり、徐々に本領を発揮していく展開が実に楽しい。牛に襲われる序盤のドタバタ、逮捕された後のアーチーの活躍など、ユーモラスな見せ場も多い上に、それがちゃんとプロットとして機能しているところも見事である。
 ミステリとしては被害者が亡くなる前にこだわっていた賭けの一件、牛の病死など、ポイントとなる出来事が明快で、それらがもつ意味、関連もきれいにまとめられている。大技炸裂とまではいかないが、ミステリとしては十分しっかりしたものである。

 久しぶりに読んだがやはりレックス・スタウトはいい。ウルフとアーチーの掛け合いの楽しさはもちろんだし、本書はスタウトの魅力満載の一冊といってもいいのではないか。うん、やはり少し追っかけてみますか。

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Comments

Edit

M・ケイゾーさん

あとをひかない、というのは言い得て妙ですね。私も続けて読んでこなかったのは、正にそれが大きいと思います。
ただ、この10年ほどいろんなクラシックを読んできたせいか、ネロ・ウルフものを久々に読んでその質の高さを再認識させられました。

Posted at 10:26 on 03 13, 2016  by sugata

Edit

読めばまあまあ面白い。しかしあとをひかない。キャラ萌えしないので後まわし。けっこう持っているけれど、あまりときめかないのです。

Posted at 10:05 on 03 13, 2016  by M・ケイゾー

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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