- Date: Sat 19 03 2016
- Category: 国内作家 小泉喜美子
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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小泉喜美子『血の季節』(文春文庫)
小泉喜美子の作風といえば、翻訳ミステリ風の洒落た都会派サスペンスというイメージがあるのだが、意外にトリッキーなものや幻想的な作品も少なくない。本日の読了本はそんな幻想系のほうの代表作『血の季節』。
物語はある事件の容疑者の告白で幕を開ける。それは男の人生の回想でもあり、そもそもの始まりは昭和十二年、男がまだ小学三年生の頃であった。空想癖のあるその少年には親しい友人がいなかったが、あるときヨーロッパ某国の公使館に住む兄妹と知り合いになり……。
時は変わって昭和五十年。早春の青山墓地で幼女の惨殺死体が発見される。捜査は難航するが、担当刑事はその惨たらしい手口に怒りを燃やし、事件解決を誓う。

ドラキュラ伝説をモチーフにして、戦時と現代という二つの時代の出来事を交互に見せていくという構成である。現代に起こった事件の犯人がおそらく戦時パートの主人公なんだろうなというのは、まあ見え見えなのでネタばらしというほどでもないだろう。
畢竟、物語の興味はその少年が成人した後、なぜ幼女を殺害するに至ったかに移っていく。
読みどころはまさにその一点なのだが、”なぜ”といっても、それは動機云々という意味ではない。少年が精神を蝕まれていった、その過程こそが読みどころなのである。戦時という非日常、異国人との接触という非日常、何より西洋のドラキュラ伝説という非日常がじわじわと主人公を侵食していく、その心理をこちらも感じたいわけである。
抑えた筆致が幻想的な内容にマッチして非常に効果を上げているが、特にドラキュラに関しての直接的な表現を避け、極力匂わす程度にとどめているところも巧い。それがラストのサプライズにも活かされているように感じる。
ただ、サプライズといっても、本作は謎の解明という興味で引っ張る作品ではないので念のため。作者の創り上げた独自の世界にどっぷりと浸り、作者の語りに酔いしれる。『血の季節』はそんな作品なのである。『弁護側の証人』とはまた違った意味での傑作だろう。
物語はある事件の容疑者の告白で幕を開ける。それは男の人生の回想でもあり、そもそもの始まりは昭和十二年、男がまだ小学三年生の頃であった。空想癖のあるその少年には親しい友人がいなかったが、あるときヨーロッパ某国の公使館に住む兄妹と知り合いになり……。
時は変わって昭和五十年。早春の青山墓地で幼女の惨殺死体が発見される。捜査は難航するが、担当刑事はその惨たらしい手口に怒りを燃やし、事件解決を誓う。

ドラキュラ伝説をモチーフにして、戦時と現代という二つの時代の出来事を交互に見せていくという構成である。現代に起こった事件の犯人がおそらく戦時パートの主人公なんだろうなというのは、まあ見え見えなのでネタばらしというほどでもないだろう。
畢竟、物語の興味はその少年が成人した後、なぜ幼女を殺害するに至ったかに移っていく。
読みどころはまさにその一点なのだが、”なぜ”といっても、それは動機云々という意味ではない。少年が精神を蝕まれていった、その過程こそが読みどころなのである。戦時という非日常、異国人との接触という非日常、何より西洋のドラキュラ伝説という非日常がじわじわと主人公を侵食していく、その心理をこちらも感じたいわけである。
抑えた筆致が幻想的な内容にマッチして非常に効果を上げているが、特にドラキュラに関しての直接的な表現を避け、極力匂わす程度にとどめているところも巧い。それがラストのサプライズにも活かされているように感じる。
ただ、サプライズといっても、本作は謎の解明という興味で引っ張る作品ではないので念のため。作者の創り上げた独自の世界にどっぷりと浸り、作者の語りに酔いしれる。『血の季節』はそんな作品なのである。『弁護側の証人』とはまた違った意味での傑作だろう。
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おお、そういう読み方もできますね。時代を戦時にもってきたのも、そういうどうしようもない時代や社会への告発の意図があったのかもしれません。
ただ、個と社会は表裏一体であり、どちらの側に立つかでまったく様相が変わって見えるのも著者の意図かもしれません。
個が社会に虐げられているのか、個が社会を慄かせているのか。ぐるぐる回っているような気もします。