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戸田巽『戸田巽探偵小説選II』(論創ミステリ叢書)
『戸田巽探偵小説選』の二巻目読了。戦前の作品をまとめた一巻に続き、こちらでは主に戦後に書かれた作品を収録しており、二冊でみごと戸田巽全集の完成である。
まずは収録作。
「幻視」
「深夜の光線」
「悲しき絵画」
「踊る悪魔」
「ビロードの小函」
「ギャング牧師」
「屍体を運ぶ」
「落ちてきた花束」
「二科展出品画の秘密」
「第四の被害者」
「訪問」
「鉄に溶けた男」
「湖上の殺人」
「朝顔競進会」
「色眼鏡」
「人形師」
「狭き門」
「川端の殺人」
「隣室の男」
「双眼鏡殺人事件」
「夜汽車の男」
「もうひとつ埋めろ」
「運の神」
「続 運の神」

「幻視」から「踊る悪魔」までが戦前の作品。「ビロードの小函」以降が戦後の作品である。といってもそれほど作風に大きな変化が出たような感じはない。
以下、印象に残った作品ミニコメ。
「悲しき絵画」は著者お得意の絵画もの。テーマや書きたいことはわかるが、いまひとつプロットが整頓されておらず、著者の中でも消化されないままストーリーにしてしまった感じ。明らかに失敗作だがちょっともったない。
「踊る悪魔」は逆「屋根裏の散歩者」みたいな物語で最初は引き込まれたが、やはりストーリーに落とし込むところで失敗している。
詐欺師の手口を描いた「ビロードの小函」は、珍しくアイディアが成功している小品。
「屍体を運ぶ」は、田舎へ買い出しにいった男が主人公。行李で家へ買い物を送り届けたが、中からはなんと女性の遺体が……という一席。これはある程度ミステリの定石を踏まえ、まずまず興味が持続するよう仕上がっている。
「落ちてきた花束」は本書中でもかなりミステリらしい結構を備えた作品で、出来そのものはいまひとつなのだが、サスペンスは効いていているのでそこそこ楽しめる。
「二科展出品画の秘密」は珍しいことに密室もの。出来は……ううむ。とりあえず密室ものである、という点が読みどころである(苦笑)。
「第四の被害者」は新聞記者が地方で取材した、大連の製鋼所で起こった事件を三つまとめているがどれもいまひとつ。ただ、そのネタを再利用した「鉄に溶けた男」は悪くない。
「湖上の殺人」はよくできている。船上での刺殺事件を扱い、一応、本格ものとして成立している。トリックはおそらくは著者がどこかの翻訳ミステリで仕入れたものだと想像できるが、なかなか効果的ではある。
「双眼鏡殺人事件」は主人公が妻の浮気を疑い、向かいのビルから妻と浮気相手の二人を双眼鏡で見張るという導入が面白い。さらには主人公が動揺して双眼鏡を落とし、下を通っていた通行人を直芸して死なせてしまうという展開も吹き込まれる。ただ、ここで力尽きた感あり。
一巻での感想では、内容や味付けが全体的にあっさり目で強烈な個性に欠ける、などというようなことを書いたのだが、本書での印象もほぼ似たようなものである。アイディアやトリックといったヤマっ気で勝負するような作家ではないけれど、かといって幻想系や異常心理ものを掘り下げるわけでもなく、印象として損をしているところはあるだろう。
戦前戦後の関西探偵小説シーンを彩った一人ではあるが、今後も振り返られることは少ないだろうし、そんな作家の業績がこうして全集的にまとまったのは、考えると奇跡に近いのかもしれない。いつも書いていることだが、論創ミステリ叢書が日本ミステリ界に果たしている功績は本当に素晴らしい。
まずは収録作。
「幻視」
「深夜の光線」
「悲しき絵画」
「踊る悪魔」
「ビロードの小函」
「ギャング牧師」
「屍体を運ぶ」
「落ちてきた花束」
「二科展出品画の秘密」
「第四の被害者」
「訪問」
「鉄に溶けた男」
「湖上の殺人」
「朝顔競進会」
「色眼鏡」
「人形師」
「狭き門」
「川端の殺人」
「隣室の男」
「双眼鏡殺人事件」
「夜汽車の男」
「もうひとつ埋めろ」
「運の神」
「続 運の神」

「幻視」から「踊る悪魔」までが戦前の作品。「ビロードの小函」以降が戦後の作品である。といってもそれほど作風に大きな変化が出たような感じはない。
以下、印象に残った作品ミニコメ。
「悲しき絵画」は著者お得意の絵画もの。テーマや書きたいことはわかるが、いまひとつプロットが整頓されておらず、著者の中でも消化されないままストーリーにしてしまった感じ。明らかに失敗作だがちょっともったない。
「踊る悪魔」は逆「屋根裏の散歩者」みたいな物語で最初は引き込まれたが、やはりストーリーに落とし込むところで失敗している。
詐欺師の手口を描いた「ビロードの小函」は、珍しくアイディアが成功している小品。
「屍体を運ぶ」は、田舎へ買い出しにいった男が主人公。行李で家へ買い物を送り届けたが、中からはなんと女性の遺体が……という一席。これはある程度ミステリの定石を踏まえ、まずまず興味が持続するよう仕上がっている。
「落ちてきた花束」は本書中でもかなりミステリらしい結構を備えた作品で、出来そのものはいまひとつなのだが、サスペンスは効いていているのでそこそこ楽しめる。
「二科展出品画の秘密」は珍しいことに密室もの。出来は……ううむ。とりあえず密室ものである、という点が読みどころである(苦笑)。
「第四の被害者」は新聞記者が地方で取材した、大連の製鋼所で起こった事件を三つまとめているがどれもいまひとつ。ただ、そのネタを再利用した「鉄に溶けた男」は悪くない。
「湖上の殺人」はよくできている。船上での刺殺事件を扱い、一応、本格ものとして成立している。トリックはおそらくは著者がどこかの翻訳ミステリで仕入れたものだと想像できるが、なかなか効果的ではある。
「双眼鏡殺人事件」は主人公が妻の浮気を疑い、向かいのビルから妻と浮気相手の二人を双眼鏡で見張るという導入が面白い。さらには主人公が動揺して双眼鏡を落とし、下を通っていた通行人を直芸して死なせてしまうという展開も吹き込まれる。ただ、ここで力尽きた感あり。
一巻での感想では、内容や味付けが全体的にあっさり目で強烈な個性に欠ける、などというようなことを書いたのだが、本書での印象もほぼ似たようなものである。アイディアやトリックといったヤマっ気で勝負するような作家ではないけれど、かといって幻想系や異常心理ものを掘り下げるわけでもなく、印象として損をしているところはあるだろう。
戦前戦後の関西探偵小説シーンを彩った一人ではあるが、今後も振り返られることは少ないだろうし、そんな作家の業績がこうして全集的にまとまったのは、考えると奇跡に近いのかもしれない。いつも書いていることだが、論創ミステリ叢書が日本ミステリ界に果たしている功績は本当に素晴らしい。
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