- Date: Fri 01 04 2016
- Category: 海外作家 ノイハウス(ネレ)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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ネレ・ノイハウス『悪女は自殺しない』(創元推理文庫)
いまやドイツミステリ界の女王と称されるネレ・ノイハウスから『悪女は自殺しない』を読む。ホーフハイム刑事警察主席警部オリヴァー・フォン・ボーデンシュタインとその部下、女性警部のピア・キルヒホフを主人公とするシリーズの第一作である。
2005年8月のドイツ。一度は家庭の主婦におさまったものの、警察の仕事が忘れられず、仕事に復帰したビア。彼女の配属先は主席警部オリヴァーが指揮にあたるチームであった。そんな刑事ピアの復帰最初の仕事は二件の自殺事件だった。一件目は猟銃で自殺した大物検事ハルデンバッハの案件。もう一件は、展望タワーから飛び降りたと思われる女性の案件だった。
ハルデンバッハについては動機こそ気になったものの、自殺は明か。問題は墜落死した女性であった。現場の状況から自殺ではないと考えたオリヴァーとビアは検死を依頼。はたしてその結果は動物を安楽死するときに使う薬物による毒殺だった。
二人は夫の働く動物病院や、被害者が働いていた高級乗馬クラブで捜査を開始するが、やがて被害者女性が多くの男性と関係をもっていたこと、そして多くの人間から憎まれていたことを知る。しかも事件の背景にはさまざまな犯罪が潜んでいたことが明らかになり、あげくに検事ハルデンバッハの自殺までもが関連を見せはじめ……。

本国での順番と違い、我が国では三作目『深い疵』、四作目『白雪姫には死んでもらう』の順で刊行されてきたが、ようやくデビュー作の登場である。
オーソドックスな警察小説をベースにしつつ、ドイツならではの歴史や冤罪など社会的なテーマにアプローチして成功したのがこれまでの作品。一方、本作ではストレートに事件そのものを描いている印象だ。
したがって物語の膨らみという点ではやや落ちるのだけれど、捜査を通して事実が明らかになるにつれ、人間の業や闇が浮かび上がるという構図は、デビュー作からしっかり確立されているのは見事。こういうスタイルは昨今の警察小説の主流ともいえるので目新しさはないにせよ、物語に十分な厚みを加え、非常に読みごたえがある。
特に被害者イザベルの悪女ぶりはすごい。そのため、てっきりそれに振り回された周囲の者たちのドラマかと思っていると、実はイザベルだけでなく、登場人物どいつもこいつも悪党で……という展開が良い意味で予想を裏切り、オリヴァーとビアがイライラを募らせながらもひとつずつ突破していく展開が読みどころである。
先ほどあげたように社会問題へのアプローチはそれほどないにせよ、警察小説としては潔く、むしろデビュー作でここまでの成果をあげていたことに感心した。
いくつか気になった点としては、まだビアがそれほど前面に出るのではなく、あくまでオリヴァー中心に物語が進んでいくところ。また、オリヴァーやビアの人間関係、個人的問題などが、『深い疵』などよりはあっさりめにしか描かれていない。
このあたりはシリーズが継続していくなかで移り変わっていったのだろうが、そういう変遷を知る意味でも、早くシリーズ二作目『Mordsfreunde』を出してもらいたいものだ。
2005年8月のドイツ。一度は家庭の主婦におさまったものの、警察の仕事が忘れられず、仕事に復帰したビア。彼女の配属先は主席警部オリヴァーが指揮にあたるチームであった。そんな刑事ピアの復帰最初の仕事は二件の自殺事件だった。一件目は猟銃で自殺した大物検事ハルデンバッハの案件。もう一件は、展望タワーから飛び降りたと思われる女性の案件だった。
ハルデンバッハについては動機こそ気になったものの、自殺は明か。問題は墜落死した女性であった。現場の状況から自殺ではないと考えたオリヴァーとビアは検死を依頼。はたしてその結果は動物を安楽死するときに使う薬物による毒殺だった。
二人は夫の働く動物病院や、被害者が働いていた高級乗馬クラブで捜査を開始するが、やがて被害者女性が多くの男性と関係をもっていたこと、そして多くの人間から憎まれていたことを知る。しかも事件の背景にはさまざまな犯罪が潜んでいたことが明らかになり、あげくに検事ハルデンバッハの自殺までもが関連を見せはじめ……。

本国での順番と違い、我が国では三作目『深い疵』、四作目『白雪姫には死んでもらう』の順で刊行されてきたが、ようやくデビュー作の登場である。
オーソドックスな警察小説をベースにしつつ、ドイツならではの歴史や冤罪など社会的なテーマにアプローチして成功したのがこれまでの作品。一方、本作ではストレートに事件そのものを描いている印象だ。
したがって物語の膨らみという点ではやや落ちるのだけれど、捜査を通して事実が明らかになるにつれ、人間の業や闇が浮かび上がるという構図は、デビュー作からしっかり確立されているのは見事。こういうスタイルは昨今の警察小説の主流ともいえるので目新しさはないにせよ、物語に十分な厚みを加え、非常に読みごたえがある。
特に被害者イザベルの悪女ぶりはすごい。そのため、てっきりそれに振り回された周囲の者たちのドラマかと思っていると、実はイザベルだけでなく、登場人物どいつもこいつも悪党で……という展開が良い意味で予想を裏切り、オリヴァーとビアがイライラを募らせながらもひとつずつ突破していく展開が読みどころである。
先ほどあげたように社会問題へのアプローチはそれほどないにせよ、警察小説としては潔く、むしろデビュー作でここまでの成果をあげていたことに感心した。
いくつか気になった点としては、まだビアがそれほど前面に出るのではなく、あくまでオリヴァー中心に物語が進んでいくところ。また、オリヴァーやビアの人間関係、個人的問題などが、『深い疵』などよりはあっさりめにしか描かれていない。
このあたりはシリーズが継続していくなかで移り変わっていったのだろうが、そういう変遷を知る意味でも、早くシリーズ二作目『Mordsfreunde』を出してもらいたいものだ。
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