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 P・A・テイラーの『ケープコッドの悲劇』を読む。著者は黄金時代に活躍した作家だが、わが国ではこれまで一部の抄訳を除いて長らく作品が読まれることはなかった。ただ、乱歩やクイーン、ヘイクラフトといった稀代の読み手からは評価されており、あらためて紹介が待ち望まれていた作家である。
 本作はそんなP・A・テイラーのデビュー作にして、シリーズ探偵アゼイ・メイヨものの一作目である。

 こんな話。ケープコッドで姪のベッツィととともに暮らす中年女性のプルーデンス・ウィッツビー。避暑シーズンともなると押し寄せる友人たちの選別に頭を悩ませる二人だが、今年はベッツィの友人ドット、プルーデンスの友人エマに確定。ところが最近ケープコッドにやってきた作家サンボーンを巡り、なにやらきな臭い雰囲気が漂っている。
 案の定、コテージ付近にある小屋でサンボーンが撲殺され、その傍らには被害者が異常に嫌っていたイワシの缶詰が転がっているという事件が起きた。保安官はサンボーンと事件直前に言い争っていた資産家の若者ビルを逮捕するが、ビルの雑用係アゼイ・メイヨは彼の無実を信じ、プルーデンスとともに調査に乗り出した……。

 ケープコッドの悲劇

 適度なユーモアを漂わせた本格ミステリ。アメリカ産ではあるが、単純な印象としてはキャラクターの魅力と本格ミステリのバランスがいい案配で、クリスティを彷彿させて悪くない。それはとりもなおさず良質のクラシックミステリを堪能するということである。

 もちろんここまで紹介が進まなかった理由もわからないではない。本作は著者の代表作ではあるが、伏線の張り巡らせ方や回収にムラがあること、登場人物の紹介が終わりきらないうちに事件発生があるため、序盤はいまひとつ盛り上がりに欠けること、犯行手段の弱さなど、弱点も少なくない。
 決して致命的というほどではないのだが、本格のようで本格に徹しきれていない部分はあり、ここが気になる人には気になる部分である。
 だが個人的には本作を否定するほどのものではなく、動機や犯人、真相は筋が通っていてなかなか面白い部分だった。

 探偵役のアゼイ・メイヨも意外に個性的で面白いキャラクターだった。資産家の使用人という身分ではあるが、数多の人生経験と人脈を武器に推理を積み重ねていく。論理はそこまで押し出すわけではないが決して軽視するわけではなく、それこそ経験など別の要素でそれを補うのでそれなりに説得力はある。
 けっこうミステリを読んできたが、こういうタイプの探偵役は珍しい。

 全体的には地味な印象なので損をしている部分はあるが、アゼイ・メイヨの魅力も含め、このレベルなら紹介を続ける価値は十分あるだろう。論創社さんがもう一踏ん張りしてくれることを切に願う。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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