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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

連城三紀彦『青き犠牲』(光文社文庫)

 連城三紀彦の『青き犠牲(いけにえ)』を読む。ギリシャ悲劇のオイディプス王の伝説をモチーフとした初期の長篇である。

 まずはストーリー。有名な彫刻家、杉原完三を父にもつ高校生・鉄男。同級生の順子とは恋人同だが、順子はここ最近、鉄男の様子がおかしいことに悩んでいた。無気力や無関心さが目立ち、ときには他者に対し激しく反抗的な態度を見せることもある。
 そんなある日、鉄男の父・完三鉄男が自宅兼アトリエから姿を消してしまう。仕事で面識のあった編集者が失踪した状況に疑問を抱き、警察に届け出たことで事件が明るみとなった。やがて完三の遺体が発見され、容疑は鉄男に向けられたが……。

 青き犠牲

 そもそもオイディプス伝説ってなんだという話だが、これは実の父を殺害し、実の母と親子婚を行った人物、オイディプス王についての物語である。エディプス・コンプレックスという心理学用語にも採られているとおり、男子にとっては一種の通過儀礼でもあるのだが、ただし、これはこじらせるとタチが悪い。
 本作はそのオイディプスの悲劇をそのまま落とし込んだストーリーとなっている。すなわち鉄男が父・完三殺害の容疑者として浮上し、その背景には鉄男と母・沙衣子の関係が……というわけだ。物語の前半はこの家族の屈折した心理が、著者ならではの湿度&密度の高い文章で描かれていく。
 ところが中盤。事件に至る過去の経緯が徐々に明らかになるにつれ、その様相はがらりと変わってくる。連城三紀彦の作品だからそれぐらいは十分想定の範囲内のはずなのだが、前半の密度が濃いだけにすっかり犯罪心理を描いた物語を読んでいるような気になってしまい、そのタイミングを計ってガツンとくる。この展開は軽い衝撃でなかなか心地よい。
 ただ、連城三紀彦はそれだけでは済まさない。オイディプス伝説だけでは収まりきらない事実をぶちこみ、よりいっそう複雑な男女や親子の心情を展開する。その結構やトリックは他の傑作に勝るとも劣らないレベルであり、こちらとしては唸るしかない。

 惜しむらくは真相がほぼ告白によってなされることだろう。プロットは練られているものの、ストーリー自体にそれが反映されておらず、驚愕の事実もこれでは効果半減。非常に惜しいと感じる部分だ。
 とはいえ、トータルでは文句なしの良作。著者の作品の中では比較的とりあげられることの少ない本作だが、見過ごすにはもったいない作品であることは確か。機会があればぜひどうぞ。

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Comments
 
涼さん

なかなか良かったですよ。鉄男や完三よりも、むしろ母・沙衣子のキャラクターがミステリアスで魅力的です。
どうぞお楽しみください。
 ポチりました
うわー、面白そう!
感想文に惹かれて、思わずポチってしまいました。


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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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