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C・デイリー・キング『いい加減な遺骸』(論創海外ミステリ)
久しぶりにC・デイリー・キングの作品を読む。C・デイリー・キングといえば本格ミステリファンにはオベリスト三部作がよく知られているところだが、今回は長らく翻訳が待ち望まれていたABC三部作からの一冊、『いい加減な遺骸』である。
こんな話。マイケル・ロード警部は『空のオベリスト』事件での失敗を苦にし、警視への昇進を受けたものかどうか悩んでいた。そんなロードに友人の心理学者ポンズ博士は、ノーマン・トリートという大富豪からの招待に同行しないかと持ちかける。
向かった先は、ハドソン川に浮かぶ孤島を利用したトリートの屋敷。ところが到着してみると、他の招待客はクラシック音楽業界の有名な変人ばかり。しかものっけから、客の一人がボートで変死してしまうという事件が起こる……。

本格ミステリがまだ活気のある時代に書かれた作品だが、本作はことさら本格ミステリに執着した作りである。
各種の見取り図、手がかりやアリバイの一覧、心理試験、ラストの謎解きシーンの演出、ペダンティズムにあふれた議論、エキセントリックな登場人物などなど、黄金期のミステリに顕著だった要素がこれでもかというばかりに放り込まれ、コテコテの本格ファンにはちょっとたまらない仕様ではないだろうか。
ただ、それらがあまり整頓されている感じではなく、とっちらかっている印象を受けるのが惜しい。プロットとしては悪くないが、各エピソードがぶつ切りというか、ストーリーにうまく落とし込まれていない。
また、反米主義とか音楽論とかの議論シーンが退屈なのはまだいいとして、そういった会話から醸し出される雰囲気も、さほどストーリーに活かされているわけではない。もう少し全体的に絞れば、かなり印象も違ったのではないかと感じた次第。
とはいえ実は本作の問題はそこではない。一番の欠点は何といっても毒殺トリックである。これは酷い。著者の本格に対する情熱はひしひしと感じるだけに、なぜ要の部分でこのような暴挙に臨んだのか理解に苦しむところである。
実はご丁寧に、最後に著者の言い訳が掲載されているのだが、ううむ、フォローにもなっていないよこれは(苦笑)。うろ覚えだがフィルポッツの『灰色の部屋』も確かこれに近いノリだったような。ご注意くだされ。
というわけでABC三部作のトップバッターとしては非常に不安な立ち上がりだが、近々、 『厚かましいアリバイ』も出るようなのでそちらにはぜひとも期待したい。
こんな話。マイケル・ロード警部は『空のオベリスト』事件での失敗を苦にし、警視への昇進を受けたものかどうか悩んでいた。そんなロードに友人の心理学者ポンズ博士は、ノーマン・トリートという大富豪からの招待に同行しないかと持ちかける。
向かった先は、ハドソン川に浮かぶ孤島を利用したトリートの屋敷。ところが到着してみると、他の招待客はクラシック音楽業界の有名な変人ばかり。しかものっけから、客の一人がボートで変死してしまうという事件が起こる……。

本格ミステリがまだ活気のある時代に書かれた作品だが、本作はことさら本格ミステリに執着した作りである。
各種の見取り図、手がかりやアリバイの一覧、心理試験、ラストの謎解きシーンの演出、ペダンティズムにあふれた議論、エキセントリックな登場人物などなど、黄金期のミステリに顕著だった要素がこれでもかというばかりに放り込まれ、コテコテの本格ファンにはちょっとたまらない仕様ではないだろうか。
ただ、それらがあまり整頓されている感じではなく、とっちらかっている印象を受けるのが惜しい。プロットとしては悪くないが、各エピソードがぶつ切りというか、ストーリーにうまく落とし込まれていない。
また、反米主義とか音楽論とかの議論シーンが退屈なのはまだいいとして、そういった会話から醸し出される雰囲気も、さほどストーリーに活かされているわけではない。もう少し全体的に絞れば、かなり印象も違ったのではないかと感じた次第。
とはいえ実は本作の問題はそこではない。一番の欠点は何といっても毒殺トリックである。これは酷い。著者の本格に対する情熱はひしひしと感じるだけに、なぜ要の部分でこのような暴挙に臨んだのか理解に苦しむところである。
実はご丁寧に、最後に著者の言い訳が掲載されているのだが、ううむ、フォローにもなっていないよこれは(苦笑)。うろ覚えだがフィルポッツの『灰色の部屋』も確かこれに近いノリだったような。ご注意くだされ。
というわけでABC三部作のトップバッターとしては非常に不安な立ち上がりだが、近々、 『厚かましいアリバイ』も出るようなのでそちらにはぜひとも期待したい。
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Comments
Edit
ほとんど評価していない作家なのですが、予想以上のひどさでした。笑い話にもなりません。
「厚かましいアリバイ」もだめでしょう。購入して読みますけど。
Posted at 20:29 on 04 29, 2016 by M・ケイゾー
M・ケイゾーさん
おっと、なかなか辛口ですね。ギミックに頼りすぎるというか、そういうところが顕著な作家ですから、本作のように失敗したときは痛さも百倍ですよね(笑)。
『厚かましいアリバイ』は期待できそうな記事もどこかで拝見したのでお手並み拝見というところでしょうか。
Posted at 23:15 on 04 30, 2016 by sugata