- Date: Sun 01 05 2016
- Category: 国内作家 森鴎外
- Community: テーマ "幻想文学" ジャンル "本・雑誌"
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森鴎外『文豪怪談傑作選 森鴎外集 鼠坂』(ちくま文庫)
ゴールデンウィークは最初の連休を使って石川県まで帰省。初めて北陸新幹線に乗ってみたけれど、いやあ金沢がほんと近くなったと実感。トンネルが多いのは玉に疵だが、北陸新幹線とのと里山海道のおかげで自宅までの移動時間はほとんど半分に減った気がする。
さすがに帰省なのであまりミステリ的な話題もないのだが、金沢の謎屋珈琲店だけは行きたかったなぁ。今回は時間がとれなかったので次回はぜひとも。
帰省中の新幹線の中で読み終えたのが、ちくま文庫の『文豪怪談傑作選 森鴎外集 鼠坂』。
これまでも文豪怪談傑作選はいくつか読んできているが、ついに森鴎外である。文豪の中の文豪というか、夏目漱石と並ぶ日本近代文学の祖。一般的な人気という点では漱石に一歩譲るのだろうが、玄人筋からは圧倒的に鴎外推しが多いらしい。
そんな森鴎外の怪奇小説を集めたのが本書。もともと鴎外が欧米怪奇小説の紹介や翻訳をしてきたことは知られているが、本書ではその業績を俯瞰すべくオリジナルと翻訳を交互に収録するという構成である。具体的には以下のとおり。
「常談」 ファルケ
「正体」 フォルメラー
「佐橋甚五郎」
「二髑髏」 ミョリスヒョッフェル
「魔睡」
「負けたる人」 ショルツ
「金毘羅」
「刺絡」 シュトローブル
「鼠坂」
「破落戸(ごろつき)の昇天」 モルナール
「蛇」
「忘れて来たシルクハット」 ダンセイニ
「影/影と形」
「心中」
「己の葬(おれのとぶらい)」 エーヴェルス
「不思議な鏡」
「分身」 ハイネ
「百物語」
「我百首」より二十五首

文豪怪談傑作選などを読んでいつも思うことだが、いわゆる文豪と呼ばれるような作家ともなると、みな語る技術が半端ではない。本書に収録されている作品なども現代の基準からするとそれほど怖くもないネタなのだが、これを森鴎外ならではの文体でもって、読む者の心にじわじわと染み込ませてくる。あまり内容にこだわらなくとも、結果的に鴎外流のふしぎ物語を読んだという満足感を得ることができて、何よりそこが凄い。
何を語るかという精神の部分だけでなく、いかに語るかという技術の部分。その両方を満たしてくれなければ、やはり文学としては物足りない。鴎外の文体などは漱石のそれに比べるとだいぶ読みにくいのだけれど、それは表面的なスタイル以上に大きな意味をもち、両者の決定的な違いでもあるだろう。
個人的な好みは、得体の知れない何かががじわっと感じられる「正体」 、鴎外の抑圧された心理が垣間見える「魔睡」や「鼠坂」、ノンフィクションとしても読めるらしい「金毘羅」あたりが管理人としては好み。上でも書いたが、怪談というほど怖い物語ではないので、鴎外の幻想作品集として味わう方がよいだろう。
今の若い人がどれだけ森鴎外を読んでいるのかしらないが、こういう方が入門編としては悪くないかもしれない。
さすがに帰省なのであまりミステリ的な話題もないのだが、金沢の謎屋珈琲店だけは行きたかったなぁ。今回は時間がとれなかったので次回はぜひとも。
帰省中の新幹線の中で読み終えたのが、ちくま文庫の『文豪怪談傑作選 森鴎外集 鼠坂』。
これまでも文豪怪談傑作選はいくつか読んできているが、ついに森鴎外である。文豪の中の文豪というか、夏目漱石と並ぶ日本近代文学の祖。一般的な人気という点では漱石に一歩譲るのだろうが、玄人筋からは圧倒的に鴎外推しが多いらしい。
そんな森鴎外の怪奇小説を集めたのが本書。もともと鴎外が欧米怪奇小説の紹介や翻訳をしてきたことは知られているが、本書ではその業績を俯瞰すべくオリジナルと翻訳を交互に収録するという構成である。具体的には以下のとおり。
「常談」 ファルケ
「正体」 フォルメラー
「佐橋甚五郎」
「二髑髏」 ミョリスヒョッフェル
「魔睡」
「負けたる人」 ショルツ
「金毘羅」
「刺絡」 シュトローブル
「鼠坂」
「破落戸(ごろつき)の昇天」 モルナール
「蛇」
「忘れて来たシルクハット」 ダンセイニ
「影/影と形」
「心中」
「己の葬(おれのとぶらい)」 エーヴェルス
「不思議な鏡」
「分身」 ハイネ
「百物語」
「我百首」より二十五首

文豪怪談傑作選などを読んでいつも思うことだが、いわゆる文豪と呼ばれるような作家ともなると、みな語る技術が半端ではない。本書に収録されている作品なども現代の基準からするとそれほど怖くもないネタなのだが、これを森鴎外ならではの文体でもって、読む者の心にじわじわと染み込ませてくる。あまり内容にこだわらなくとも、結果的に鴎外流のふしぎ物語を読んだという満足感を得ることができて、何よりそこが凄い。
何を語るかという精神の部分だけでなく、いかに語るかという技術の部分。その両方を満たしてくれなければ、やはり文学としては物足りない。鴎外の文体などは漱石のそれに比べるとだいぶ読みにくいのだけれど、それは表面的なスタイル以上に大きな意味をもち、両者の決定的な違いでもあるだろう。
個人的な好みは、得体の知れない何かががじわっと感じられる「正体」 、鴎外の抑圧された心理が垣間見える「魔睡」や「鼠坂」、ノンフィクションとしても読めるらしい「金毘羅」あたりが管理人としては好み。上でも書いたが、怪談というほど怖い物語ではないので、鴎外の幻想作品集として味わう方がよいだろう。
今の若い人がどれだけ森鴎外を読んでいるのかしらないが、こういう方が入門編としては悪くないかもしれない。