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 クラシックミステリの復刻ブームがすっかり定着して、今では相当レアな作家でも代表作ぐらいは読めるようになった昨今だが、今でも相変わらず入手難な作家がいる。鷲尾三郎もその一人。
 かつて2002年に河出文庫から『鷲尾三郎名作選 文殊の罠』が出て、そこそこ再評価の動きがあったと思うのだが、結局、それ以降の復刻は皆無。かろうじて2015年に盛林堂ミステリアス文庫で『妖魔の横笛』が出たが、あれはジュヴナイルだし、そもそも私家版だからなぁ。やはり単純に内容と売れ行きの問題なんだろうか。

 本日の読了本はそんな鷲尾三郎から『過去からの狙撃者』。1980年代に著者が長い沈黙を破って発表した最後の長編である。

 まずはストーリー。
 文化の日の夜、神戸の高層ビルで一発の銃弾が鳴り響いた。巡回中の警備員が二十三階の碇山興産に駆けつけたとき、そこには碇山社長の射殺された姿が。そして現場はなんと密室であった。
 さっそく県警捜査一課の各務警部をリーダーに捜査が始まったが、さらに関係者のあいつぐ不審死が発見され、捜査は難航する……。

 過去からの狙撃者

 鷲尾三郎の長編を読むのはこれが初めてなので、いまひとつ自分のなかでも落とし込めていない気はするのだが、いやあ、これは微妙だわ。決してつまらないわけではなく、そうかといって諸手を上げて賞賛するほどでもない。

 全体的な構成はオーソドックスな警察小説である。著者自身もマクベインに心酔していたとあとがきで述べているとおりで、これは割とよくできている部分。部下との連携や個々のキャラクターを出しつつ、地道な捜査が少しずつ功を奏していく様は意外にこなれている。
 ただ、主人公格の各務警部のプライベートの描写が弱い。夫婦仲の揺らぎを交えての描写は狙いとしては悪くないが、とってつけたようなレベルでサイドストーリーとしては物足りない。

 ミステリ的なポイントとしては二つの密室殺人だろう。ひとつは高層ビルの一室で起こった密室殺人、もうひとつはアパートで起こった毒ガスによる密室殺人である。
 しかしながら前者は簡単すぎてすぐに読めるし、後者はよくできてはいるがあくまでパズル的な物理トリックなので、ああそうですかとしか言いようがない感じ。二つの密室を盛り込んだはいいが、そこまでハッとするものではなく物足りなさは残る。

 さて、本作にはもうひとつ大きなポイントがあって、それは戦争犯罪というテーマである。長らく執筆を中断していた著者が再び筆をとった動機、それが本作のテーマになっているわけだが、これがなかなか重い。
 ミステリとしてこれを消化する場合、社会派的なアプローチだったり純粋な警察小説という形であればともかく、密室殺人のようなゲーム性の強い要素などを絡ませてはなんとも収まりが悪い。本来はトリックメーカーたる鷲尾三郎としては、本格の部分も疎かにしたくなかったんだろう。しかし、それがかえって裏目に出た感じである。
 戦争犯罪と人間について考えたかったのか、警察小説であらたなスタイルを築こうとしたのか、あらためて本格ミステリで再出発を図ろうとしたのか、著者の思惑が入り混じった結果、本作のバランスが大きく崩れてしまったのかもしれない。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌





M・ケイゾーさん

>今日、再読してみましたが、「普通」。戦争犯罪テーマを中心にしたほうが良いと思いました。

まあ、そうなりますよねえ。あえて密室を盛り込んだことでピントがぼけてしまった感がありますね。
【2016/05/06 22:52】 URL | sugata #8Y4d93Uo[ 編集]

 今日、再読してみましたが、「普通」。戦争犯罪テーマを中心にしたほうが良いと思いました。
 他の人と語ろうにも盛り上がらないような気がします。
【2016/05/06 22:08】 URL | M・ケイゾー #-[ 編集]















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