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 パトリック・クェンティンの『犬はまだ吠えている』を読む。おなじみピーター・ダルースものではなくて、ジョナサン・スタッグ名義で発表されたヒュー・ウェストレイク医師を主人公にしたシリーズ一作目である。
 まずはストーリー。
 マサチューセッツ州はケンモア・ヴァレーという田舎町で、娘ドーンとともに暮らす医師ヒュー・ウェストレイク。ある晩のこと、いつになく猟犬たちの吠え声に不安を感じていると、裕福だが口やかましいルエラという患者から呼び出しがあり、ヒューはしぶしぶ往診に出かけていく。その夜は狩犬が騒がしいこともあり、ルエラは神経質になっていたようだ。しかし、帰り際に彼女が口にした不吉な言葉がヒューには気がかりだった。
 翌日、前日のルエラの言葉が的中した。町の狩猟クラブでキツネ狩りが行われ、キツネの巣穴から腕も頭もない女性の胴体が発見されたのだ。ヒューはコブ警部の要請で保安官代理に任命され、ともに捜査にあたるが、事件はこれだけでは終わらなかった……。

 犬はまだ吠えている

 全体的にはきちんとまとまった本格ミステリである。
 あっと驚くような傑作を期待してはいけないが、本作ならではのアイディアもあり、クェンティンのファンならおそらく失望するようなことはないだろう。
 惜しいのはメインとなる大きな仕掛け。首なし死体という時点で、今どきの読者にネタを読まれるのは致し方ないところだ。とはいえそれに続く馬の殺害事件はよくできているし(特に動機)、伏線やミスディレクションもここかしこに仕掛けられており、本格としては水準作といってよい。

 物語そのものも面白い。推理することを主眼に置いた本格ミステリ(特に黄金期)では、往々にして物語が膠着するケースも多いのだが、本作ではけっこう人の出し入れが印象的で、しかも細かな事件を連続して畳み掛けてくる。ストーリーにも起伏ができて、読者を退屈させることなく興味をうまく引っ張っていってくれる。
 事件の背景にあるのが田舎町ならではの複雑な人間関係であり、そういうのが苦手な人はどうしようもないが、ストーリーや謎解きへの活かし方もこなれたものだ。

 本格ミステリには珍しく、探偵役(ヒュー医師)の一人称というスタイルをとっているところも注目。
 本格におけるフェア精神という点ではマイナスになりかねないが、容疑者や関係者への洞察の描写、サスペンスの盛り上げという観点では非常に効果的であり、本作においては十分に成功しているように思う。

 ということでこうして書いていくと褒めどころ満載なのだが、最初に少し書いたようにメインの謎が読まれやすいのがウィークポイント。ただ、それを含めても悪くない作品であり、残りの作品の紹介にも期待したいところだ。

 ちなみにピーター・ダルースものとほぼ並行して書かれていたヒュー・ウェストレイク医師ものだが、本作を読んだ限りでは陽のピーターもの、陰のヒュー医師ものという感じである。これはキャラクターの性格ではなく、物語の雰囲気の話。
 それこそピーターが狂言回し的に活躍するあちらのシリーズは、あえて作り物めいた雰囲気にしているのに対し、本作はあくまでサスペンス要素も強いシリアス路線。著者が自分の中でのバランスを考えていたのか、ビジネス的なところなのかはわからないが、この差は興味深い。
 そもそもパトリック・クェンティンという作家の活動が、コンビだったり単独だったり、ときにはパートナーも変わったりと、複雑な創作体制である。このあたりの影響がどの程度あったのだろうかも気になるところである。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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