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 陳舜臣の『三色の家』を読む。
 扶桑社から出た 「昭和ミステリ秘宝」版で読んだのだが、本書は表題作に加えて長編『弓の部屋』、短編「心で見た」というラインナップ。『弓の部屋』は以前に感想をアップしているので(こちらをどうぞ)今回は割愛。本日は『三色の家』と「心で見た」にフォーカスしよう。

 三色の家

 まずは『三色の家』から。
 昭和八年のこと。日本での留学生活を終え、帰国の準備を進めていた陶展文のもとへ、友人の喬世修から手紙が届いた。そこには喬世修の父に関する黒い噂、父から自分には腹違いの兄がいると聞かされたこと、そしてその兄が来日したことが記されていた。喬世修は特に兄について懸念しており、その人柄を陶展文に観察してほしいので、帰国前に一度、神戸まで来てくれないかというのだ。
 それから一週間後、再び喬世修から手紙が届いた。父が急死したため、すぐに神戸へ来てほしいという。陶展文は急いで喬世修の住む”三色の家”へ向かうが、彼を待っていたのは殺人事件であった……。

 本作は陳舜臣が生んだ名探偵・陶展文の若かりし日の活躍を描いた作品である。とはいえ異色作という感じはあまり受けず、デビュー作『枯草の根』だけでなくノンシリーズ『弓の部屋』とも共通し、相変わらず手堅いミステリという印象である。
 何といっても人物描写が優れている。神戸で水産加工に携わる人々の暮らしや日本人と華僑の関係など、実にリアリティをもって迫ってくる。特別、名調子とか美文ではないのだけれど、控えめに、かつ細やかに綴っていく著者のバランス感覚が素晴らしい。

 本格ミステリとしては不可能犯罪を扱い、そのトリックは機械的なものではあるが、これも変に突飛なものを使わないので、けっこう自然に受け止めることができて好印象。ただし、そこまで驚くようなものではなく、ガチガチの本格を期待する向きには物足りないかもしれない。
 それよりも気になったのはストーリーの構成か。プロットはしっかりしているが、それがいざストーリーに落としこまれると起伏に乏しく、なんとなく登場人物たちのやりとりだけで進行している感じになってしまうのだ。これは『枯草の根』を読んだときにも感じたことで、終盤の謎解きで盛り返しはするが、爆発するところまでいかないのが惜しい。
 喬世修の兄についてはとりわけ興味深い存在なので、彼をもっと掻き回し役として活用したほうがよかったかも。

 なお、本作はデビュー作『枯草の根』に続いて書かれた作品なのに、いきなりシリーズ探偵の若き日の活躍ってどういうことかと思っていたのだが、読んで納得。
 本作はおそらくテーマありきで書かれた作品であり、その物語の設定上、年配の陶展文は必要がなかったのだろう。そこで若い探偵役に、青年時代の陶展文を当てはめたのではないか。まあ、単なる想像ですが。


 「心で見た」は単行本初収録、しかも著者唯一のジュヴナイルというボーナストラックである。
 学習雑誌『高二コース』(管理人も読んでました)に掲載されたもので、ずらっと関係者の供述書を並べてそこから推理するという趣向が楽しい一作。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌





涼さん

そういえばコース派と時代派がありましたねえ。私は中高一貫してコースを読んでいました。
けっこう懸賞に応募しては辞書やらペンやら当選したり、俳句が入選して掲載されたこともありました。あの雑誌、まだ実家にあるのかな(苦笑)
【2016/05/15 00:53】 URL | sugata #8Y4d93Uo[ 編集]

こんばんは

懐かしい本ですね。中身も、ボンヤリと思いだしました。
懐かしいと言えば、涼は「高二コース」(学研でしたっけ?)ではなくて「高二時代」(旺文社)を読んでいました。三年生になると「蛍雪時代」となります。
と、関係ないことに突っ込んですみません。
【2016/05/15 00:37】 URL | #LkZag.iM[ 編集]















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