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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


江戸川乱歩『明智小五郎事件簿 I 「D坂の殺人事件」「幽霊」「黒手組」「心理試験」「屋根裏の散歩者」』(集英社文庫)

 昨年は江戸川乱歩の没後五十年を記念して、テレビやアニメ、漫画、サイト、イベント等でいろいろな企画があったが、これも(一年遅れとはいえ)その一環だろう。集英社文庫からスタートした「明智小五郎事件簿」全十二巻の刊行である。
 乱歩が創出した日本で最も有名な探偵・明智小五郎が絡む全作品を、事件発生順にまとめたシリーズで、本書はその第一巻。明智登場第一作目の「D坂の殺人事件」を皮切りに、以下の五短編を収録している。

「D坂の殺人事件」
「幽霊」
「黒手組」
「心理試験」
「屋根裏の散歩者」

 明智小五郎事件簿I

 登場作品をすべて物語の発生した順番でまとめるという試みは、言うまでもなくシャーロキアンのひそみに倣ったもの。ちくま文庫『詳注版シャーロック・ホームズ全集』が、それを実践した全集として知られているが、本書はこれを明智小五郎でやってみたというわけである(ただし、あそこまで詳細な註釈はない)。

 なお、企画そのものは本邦初というわけではない。
 というのも本書で年代記を担当されている平山雄一氏は、もともとネット上で同様の記事を公開していたようだし、さらにはそれらがまとめ直されて、2009年に出た驚愕の明智研究本、住田忠久/編著『明智小五郎読本』(長崎出版)にも収録されている。
 とはいえ作品を実際に順番に読める形として出版してくれるのは、やはりありがたい。乱歩の全集はいくつか持っているので、今さら明智ものだけ集められてもなぁと最初は思ったのだが、年代学、つまりなぜこの作品がこの日付になったのかという推察が合わせて収録されているので、随時、並行して確認できるのはなかなか便利だ。
 まあ、コレを便利だと思う人が世の中に何人いるのかは置いといて(苦笑)。

 ただ、昨今はキャラクターで小説にアプローチするファンも少なくない、というか、むしろメインストリームかもしれないので、明智もののドラマやアニメ、漫画で興味を持った人が、この切り口なら小説も読んでくれる可能性は決して少なくないだろう。
  また、乱歩作品を久々に読み直すきっかけになった人もいるだろうし(管理人です)、それらの意味で、本書は出るべくして出た一冊なのかも知れない。

 あまりにメジャー作品が並ぶので今更な感じではあるが、一応は作品ごとのコメントも。
 明智デビュー作の「D坂の殺人事件」は書生風明智のキャラクター的な面白さもさることながら、二段構えの推理シーンが読みどころ。語り手の推理が真相でも、これはこれで面白かった気がする。
 「幽霊」はラストのサプライズが本書の形だと通用しないのはもったいないが、こればかりはさすがに仕方ないか。
 「黒手組」は暗号ネタだが、むしろ事件の構図に妙がある。
 「心理試験」は昔から好きな作品で、個人的には乱歩短編のベスト3に入れたい。この頃の明智の捜査や推理は人間の心理に着目することが多いが、これは何といってもその代表作。人間心理の盲点を描いた傑作で、探偵対犯人という構図がコンパクトながらガチッとはまっているところもお気に入りの理由の一つだ。
 「屋根裏の散歩者」もベスト3級。 「心理試験」と同様に、犯罪者の心理に着目した推理、探偵対犯人という構図も魅力的だが、加えて犯人役が徐々にエスカレートしていく倒叙ものとしても絶品である。

 全体的には猟奇風味を持たせつつも本格に寄っている作品が多く、初期作品の素晴らしさを手軽に堪能できる一冊といえる。

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Comments

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ポール・ブリッツさん

ベスト3企画、ありがとうございます(笑)。
「屋根裏の散歩者」はベスト3で大丈夫です。問題ありません。残る一席ですが、ベタですいませんが「人間椅子」 ということで。
 ただ、人には言えない裏ベスト3でいくなら「防空壕」「芋虫」「鏡地獄」で決まりです。こういう話ばかり書いていれば、そりゃ不健全派とか言われるよなぁとつくづく思います(苦笑)。

Posted at 00:51 on 06 25, 2016  by sugata

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「心理試験」「屋根裏の散歩者」と来て、sugataさんの「乱歩短編ベスト3」の残りはなんだろう。

本命「二銭銅貨」
対抗「押絵と旅する男」
「人間椅子」
大穴「パノラマ島奇譚」
「芋虫」
超大穴「算盤が恋を語る話」
「防空壕」


さあ張った張った!(笑)

極私的なベスト3は、「心理試験」「二銭銅貨」「鏡地獄」ですね。「鏡地獄」が落ちるけれど、変態小説としてあれ以上のインパクトある作品はそうは書けないと思うので(笑)

ひらやまさんのベスト3もぜひお聞きしたいものです。

……と書いていて「屋根裏の散歩者」はベスト3「級」だということに気がついて(´・ω・`)……。

Posted at 19:27 on 06 24, 2016  by ポール・ブリッツ

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ひらやまさん

>「年代学」の一番最初は、講談社版をもとにした1989年に出した私家版(コピー本)で〜

ひえええ、そんな頃からやってらっしゃったんですか。正にマニアの鑑。いや、鬼ですね。
記事でも書きましたが、久しぶりに乱歩を読むきっかけができて感謝しています。まあ短編はなんだかんだでたまに読むこともあるんですが、長いのは随分読んでいません。二巻では「一寸法師」も入るようですから楽しみにしています。

Posted at 23:59 on 06 21, 2016  by sugata

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ご紹介ありがとうございます。
「年代学」の一番最初は、講談社版をもとにした1989年に出した私家版(コピー本)で、94年に印刷した第二版を出しました。「明智小五郎読本」は光文社文庫版をもとにして書き直したので多少結論が違っていますが、誤植が多いのが悩みです。今回のものは春陽堂全集をもとにしていますが、講談社版と違いはなさそうです。

Posted at 08:32 on 06 21, 2016  by ひらやま

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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