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 かつて「外地」と呼ばれた土地を舞台にした探偵小説アンソロジーのシリーズ第三弾、『外地探偵小説集 南方篇』を読む。
 一冊目が満州、二冊目が上海ときて、三冊目の本書は南方が舞台。エリアとしては少々ざくっとした感じだが、本書でいう南方は主に東南アジア諸国、つまりはフィリピン、シンガポール、インドネシアあたりを指し、第二次大戦までは欧米諸国の領土だった場所だ。
 荒漠とした満州、混沌に満ちた国際都市上海とはまた異なり、南方のイメージは熱帯特有のエキゾチシズム&猥雑さだろう。戦記物ならいざ知らず、そんな舞台が果たして探偵小説とどこまでマッチングするのか。そんな興味も含めて読んでみた。

 外地探偵小説集南方篇

山口海旋風「破壊神(シヴァ)の第三の眼」
北村小松 「湖ホテル」
耶止説夫 「南方探偵局」
玉川一郎 「スーツ・ケース」
日影丈吉 「食人鬼」
田中万三記「C・ルメラの死体」
陳舜臣「スマトラに沈む」

 収録作は以上。日影丈吉と陳舜臣はともかくとして、相変わらずこのシリーズはレア度が高い。今回は山口海旋風と玉川一郎がお初のはずで、耶止説夫(歴史作家・八切止夫の別名義)、北村小松、田中万三記もアンソロジー等で短編を読んだことがある程度。レアな作家揃いであることは間違いなく、もうこの時点で満足なのだが、さすがにそれでは終われないので以下感想など。

 「破壊神の第三の眼」はシンガポール海峡のロバム島を舞台にし、宝探しを軸に据えた戦記冒険もの。暗号で味付けをしているところがミソなのだが、そのミソがどうにも低レベルで残念。ただ、1939年という正にその時代に書かれたこと、比較的ボリュームがあることもあって、当時の日本人の南方感を知るには悪くない。

 北村小松の 「湖ホテル」は、フィリピンで起こった殺人事件を描く。日本人のホテルオーナーが容疑者として逮捕され、その危機を救うというものだが、これまた出来としては今ひとつ、いや二つ三つぐらいあるか。

  「南方探偵局」は日本による占領直後のシンガポールが舞台。探偵好きのOLが探偵事務所に就職したのはいいが、仕事がつまらないものばかりだと憤慨。兄の転勤に便乗してシンガポールにやってきては、探偵事務所を開業するという一席。
 内容的にはこれもハズレなのだが、探偵をあえて南方で開業するという設定に着目し、戦時中に探偵小説を書けなくなった日本の探偵小説界にダブらせたのではないかという解説が興味深い。

 玉川一郎の 「スーツ・ケース」は最後にとってつけたようなミステリ仕立てになっているが、その実はユーモア小説。戦時中の日本の愚かさを笑っているようなアイロニーに満ちた作品で、よくこういうものが書けたなと最初は驚いたが、実際に書かれたのは戦後ということで拍子抜け。同時代であればその意欲だけでも相当なものだが、やはりそう簡単にはいかない。

  「食人鬼」は日影丈吉の作品だけあってやはりモノが違う。戦時中にあった食人という問題にアプローチした作品だが、その事実云々ではなく、食人という噂を立てられた帰還兵の追い詰められてゆくさまを描いていてお見事。

 フィリピンのミンダナオ島を舞台にした「C・ルメラの死体」は、本書中で最も探偵小説らしいスタイルをとった作品だ。ミステリとしてのネタは大したことがないけれども、戦時中のフィリピンにおけるスペイン系の人々の生活が描かれ、そんな風土だからこそ発生した殺人事件を描いていて興味深い。南方という舞台と探偵小説がマッチングした好例。

 陳舜臣の「スマトラに沈む」は実在の作家・郁達夫を題材にしたノンフィクション風作品で、出来だけでいえば「食人鬼」と並んで本書の中では頭一つも二つも抜けている。
 ただし内容としてはいいのだが、1965年に発表した作品ということで、このアンソロジーに入れること自体が釈然としない。単に外地の事実を伝えるとか、もしくは南方が舞台のミステリを集めるだけなら、まったく書かれた時代にこだわらなくてもいい。あるいは外地に対する認識の変遷を伝えたいというなら、むしろ平均的に書かれた時代を散らすべきだろう。
 しかし、本書の編集の意図はそうではないはず。それなら戦時中のマイナー作品をわざわざ探し出す必要もないはずだが、本書はあえてそれをやっている。それは(推測にはなるが)あくまで戦時中にリアルタイムで書かれた作品でまとめ、同時代の空気や認識を伝えることの方が重要だからではないか。南方を舞台にする同時代の作品が足りなかったという理由は考えられるが、良質なアンソロジーだけにその点が余計惜しまれる。

 なお、本書の解説では第四弾の”大陸篇”が予定されている旨書かれているが、本書が出たのは六年前ということで、どうやらそれっきり立ち消えになってしまった可能性は高い。とはいえ上海篇と南方篇の間にも四年ほどあったはずなので、もしかするとまだ進行中の可能性もないではない。ううむ。期待したいところではあるのだが。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



















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