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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


C・デイリー・キング『海のオベリスト』(原書房)

 銀座松屋へ「ミヒャエル・ゾーヴァの世界展」を観にいく。ゾーヴァは物語や絵本の挿絵で有名な画家だが、描き方は緻密でリアルなのに、そこに描かれている世界はのんびりしたユーモアに包まれた、独特なファンタジーの世界。このアンバランスが気持ちよくて、挿絵が描かれた本は全部持っているほどだ。日頃親しんでいる挿絵の原画が見られただけでも嬉しいのに、何と日本では未公開の絵もかなりあって満足。特に気になったのは、タイトルは忘れちゃったけど、空耳をそのまま絵にしたというやつ。ああ、早くどこかから出版してくれないかな。
 その後、真向かいにあるアップルストアものぞいてみたが、ううインテルマック、いいなぁ。MacBookはまだ置いていなかったが、真剣に購入を検討したくなってきた。

 読了本はC・デイリー・キングの『海のオベリスト』。原書の発行順とまったく逆になってしまったが、これでオベリスト三部作もすべて読了。

 こんな話。豪華客船メガノート号のサロンでは、1日の航行距離を落札するという恒例のオークションが行われていた。オークションが異様に白熱する中、突然停電が発生。その瞬間、銃声がサロンに鳴り響く。再び明かりが灯されたとき、人々が目にしたのは、銃弾に倒れた資産家のスミス氏と、拳銃を手にして立つ、オークションでスミス氏と競り合った男だった。男は犯人として取り押さえられるものの、次々に意外な事実が明るみに出て事件は混迷を極め、ついには客船に乗り合わせた4人の心理学者による推理合戦へと発展する。

 出来はこの際抜きにして、ヴィンテージの味わいが十分に楽しめる作品である。客船という限られた空間。心理学を応用する推理合戦。連続するどんでん返し。意外な犯人。意外な探偵。おまけに手がかり索引まで付いた日には、さぞや作者も楽しんで書いたであろうことがうかがえる。
 また、「出来はこの際抜きにして」と書いたが、それほど本格としてひどいレベルでもなく、仕掛けは『空のオベリスト』が上だが、雰囲気ではこちらが好みだ。過大な期待さえしなければ、クラシックファンは読んでおいても損はないだろう。

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Comments

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チャールズでした。すみません。

Posted at 18:42 on 04 02, 2009  by ポール・ブリッツ

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ポール・ブリッツさん

トリックとしてはどうよ、という気がしないでもないですが、個人的には本格マインドに溢れた設定や語りが好みです。『タラント氏の事件簿』も同様。完成度というか満足度でいえば、オベリスト・シリーズよりも上かも。

あと、正しくは、チャールズ・デイリー・キングですよね?

Posted at 03:01 on 04 02, 2009  by sugata

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「鉄路」は読んでいませんが、「海」と「空」は読みました。
「海」は、全体の90パーセントが傑作だと思います。探偵が姿を現すところまで。探偵が明かす真相がいちばんつまらなかった(笑)。もちろん後から「手がかり索引」をひいてひとつひとつ伏線を確かめましたが、ちと強引にすぎるような気がしたであります。
「空」には完全にダマされました。犯行時刻を錯誤させるトリックでは、あれ以上の作品はないでしょう。最後に「手がかり索引」をチェックするときの楽しかったこと(笑)。あの叢書の中でも指折りの傑作ですね。でもマニア向きの作品であることも確かです。普通の人は「手がかり索引」チェックしたりしないよ(笑)。
「タラント氏」はお読みになられましたか? あの本は、チェックしようチェックしようと思っているうちに、図書館に注文しそびれて……(汗)。面白いようでしたらダメもとで図書館にリクエストカード送ろうかなあと考えております。

総じて、好きなタイプの作家ですね、クリスチャン・デイリー・キングは。

Posted at 17:24 on 04 01, 2009  by ポール・ブリッツ

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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