- Date: Sun 06 11 2016
- Category: 国内作家 正木不如丘
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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正木不如丘『正木不如丘探偵小説選I』(論創ミステリ叢書)
五日の土曜日、数年ぶりに神田古本まつりを見てまわる。以前は会社が神保町にあったものだから、期間中は昼休みにほとんど毎日のぞいたものだが、会社が移転して二駅ほど離れただけであっという間に足が遠くなってしまった。最近は以前ほど古書にも執着しなくなったというか、新刊でクラシックが山ほど出てくれるので、本当に必要なものだけ買う程度である。
それでも久々に時間をかけてまわったので精神的にはだいぶ満足(苦笑)。期間が六日までなので、どうせ大したものは残っていないだろうとは思っていたが、多岐川恭、石沢英太郎、陳舜臣あたりで縁がなかった本がいくつか拾えたのはよかった。
本日の読了本は論創ミステリ叢書から『正木不如丘探偵小説選I』。
正木不如丘は本業が医師で、結核療養について深く研究していた人である。同時に学生時代から文学にも興味をもち、医師となってからは医学に関したエッセイで商業デビューを果たしている。その後も医師として勤務しながら同人活動を続けていたが、その活動を通じて小酒井不木と知り合い、探偵小説にも手を染めるようになったらしい。
作家として活躍した時期としては主に1920~1940年あたり。特に20年代は活発だったようだが、探偵小説プロパーではないので、ミステリ以外の著作も多く、基本は医学をネタにした大衆小説をであり、エッセイ、ノンフィクション系も少なくない。
本書と続刊の『正木不如丘探偵小説選II』では、そんな不如丘の探偵小説として発表された短編長編はもちろん、その周辺的な作品もすべて網羅しているということで、相変わらずの徹底ぶりがありがたいことである。

「法医学教室」
「剃刀刑事」
「椰子の葉ずれ」
「天才画家の死」
「夜桜」
「赤いレッテル」
「吹雪心中」
「髑髏の思出」
「県立病院の幽霊」
「警察医」
「本人の登場」
「手を下さざる殺人」
「保菌者」
「青葉街道の殺人」
「最後の犠牲者」
「殺されに来る」
「指紋の悔」
「うたがひ」
「通り魔」
「1×0=6,000円」
「湖畔劇場」
「お白狐(びゃっこ)様」
「生きてゐる女」
「背広を着た並びに」
「常陸山の心臓」
「美女君(ヘル・ベラドンナ)」
「紺に染まる手」
「蚊―病院太郎のその後」
収録作は以上。ぶっちゃけ探偵小説としてはかなり低レベルである(苦笑)。
作品自体はいくつかアンソロジーで読んだことがあって、それほど印象にも残っていなかったのだが、こうしてまとめて読むとその弱点がまざまざと浮かび上がってくる。
トリックが弱いとか、プロットが粗いとか、ストーリーがいまひとつとか、そういうレベルではない。もっと根本的なところが問題。不如丘はもしかすると探偵小説の肝というか面白さを理解していなかったのではないかという気がするのである。
「なぜ、そんなところで終わる?」、「なぜ、説明をしない?」、「なぜ、テーマを途中で変える?」、読んでいてここまで釈然としない探偵小説はなかなか久し振りである(苦笑)。とにかく読者が探偵小説に求めるものをまったくわかっていないといえばいいか。まだ探偵小説そのものがはっきりと定着していない時代ということもあるだろうが、乱歩や不木、雨村などは当たり前のようにツボは押さえていたしなぁ。これは探偵小説音痴といってもいいのかもしれない。
評論家の中島河太郎も「本質的に探偵作家ではない」とか「探偵小説的構成からみたら脆弱」とか「腰砕けに終わっている」とか、過去に散々なコメントを残しているが、これは特に氏が辛口なのではなく、実際そんな感じなのだからしょうがない。
そんななか多少なりとも印象に残ったものを挙げると、「県立病院の幽霊」と「殺されに来る」。
「県立病院の幽霊」はタイトルどおり病院に出没する幽霊をめぐる物語。マスコミの攻撃や動揺する職員に真っ向から対立する院長の存在が面白く、真相もまずまず。ただ、ラストで院長にかけられるトラップの意味がまったくわからないのは困りもの。こっちが読み落としている可能性もあるが、いや、これは著者の説明不足だよなぁ……。
「殺されに来る」は、年に一度村へやってくる薬売りが実は、という設定がうまい。村の男とは違い、垢抜けて口も上手い薬売りである。村の娘から慕われるが、村の男どもは当然それが面白くない。しかも薬売りにはどうやら裏の顔もありそうで、という辺りまでは実に引っ張る。ただ、これも途中から方向性が怪しくなって、真相はけっこう面白いのだけれど、その驚かせ方の段取りがぐだぐだ。もう少しストーリーを練れば、これは悪くない作品になったはずだ。
ということで、かなり否定的な感想になってしまったが、こういうのも含めてクラシックの探偵小説を読む楽しみである。腐してはいるが同時に面白がって読んでいる自分もいるわけで、傑作ばかりが読書ではないよね、というのが本日のまとめ。
それでも久々に時間をかけてまわったので精神的にはだいぶ満足(苦笑)。期間が六日までなので、どうせ大したものは残っていないだろうとは思っていたが、多岐川恭、石沢英太郎、陳舜臣あたりで縁がなかった本がいくつか拾えたのはよかった。
本日の読了本は論創ミステリ叢書から『正木不如丘探偵小説選I』。
正木不如丘は本業が医師で、結核療養について深く研究していた人である。同時に学生時代から文学にも興味をもち、医師となってからは医学に関したエッセイで商業デビューを果たしている。その後も医師として勤務しながら同人活動を続けていたが、その活動を通じて小酒井不木と知り合い、探偵小説にも手を染めるようになったらしい。
作家として活躍した時期としては主に1920~1940年あたり。特に20年代は活発だったようだが、探偵小説プロパーではないので、ミステリ以外の著作も多く、基本は医学をネタにした大衆小説をであり、エッセイ、ノンフィクション系も少なくない。
本書と続刊の『正木不如丘探偵小説選II』では、そんな不如丘の探偵小説として発表された短編長編はもちろん、その周辺的な作品もすべて網羅しているということで、相変わらずの徹底ぶりがありがたいことである。

「法医学教室」
「剃刀刑事」
「椰子の葉ずれ」
「天才画家の死」
「夜桜」
「赤いレッテル」
「吹雪心中」
「髑髏の思出」
「県立病院の幽霊」
「警察医」
「本人の登場」
「手を下さざる殺人」
「保菌者」
「青葉街道の殺人」
「最後の犠牲者」
「殺されに来る」
「指紋の悔」
「うたがひ」
「通り魔」
「1×0=6,000円」
「湖畔劇場」
「お白狐(びゃっこ)様」
「生きてゐる女」
「背広を着た並びに」
「常陸山の心臓」
「美女君(ヘル・ベラドンナ)」
「紺に染まる手」
「蚊―病院太郎のその後」
収録作は以上。ぶっちゃけ探偵小説としてはかなり低レベルである(苦笑)。
作品自体はいくつかアンソロジーで読んだことがあって、それほど印象にも残っていなかったのだが、こうしてまとめて読むとその弱点がまざまざと浮かび上がってくる。
トリックが弱いとか、プロットが粗いとか、ストーリーがいまひとつとか、そういうレベルではない。もっと根本的なところが問題。不如丘はもしかすると探偵小説の肝というか面白さを理解していなかったのではないかという気がするのである。
「なぜ、そんなところで終わる?」、「なぜ、説明をしない?」、「なぜ、テーマを途中で変える?」、読んでいてここまで釈然としない探偵小説はなかなか久し振りである(苦笑)。とにかく読者が探偵小説に求めるものをまったくわかっていないといえばいいか。まだ探偵小説そのものがはっきりと定着していない時代ということもあるだろうが、乱歩や不木、雨村などは当たり前のようにツボは押さえていたしなぁ。これは探偵小説音痴といってもいいのかもしれない。
評論家の中島河太郎も「本質的に探偵作家ではない」とか「探偵小説的構成からみたら脆弱」とか「腰砕けに終わっている」とか、過去に散々なコメントを残しているが、これは特に氏が辛口なのではなく、実際そんな感じなのだからしょうがない。
そんななか多少なりとも印象に残ったものを挙げると、「県立病院の幽霊」と「殺されに来る」。
「県立病院の幽霊」はタイトルどおり病院に出没する幽霊をめぐる物語。マスコミの攻撃や動揺する職員に真っ向から対立する院長の存在が面白く、真相もまずまず。ただ、ラストで院長にかけられるトラップの意味がまったくわからないのは困りもの。こっちが読み落としている可能性もあるが、いや、これは著者の説明不足だよなぁ……。
「殺されに来る」は、年に一度村へやってくる薬売りが実は、という設定がうまい。村の男とは違い、垢抜けて口も上手い薬売りである。村の娘から慕われるが、村の男どもは当然それが面白くない。しかも薬売りにはどうやら裏の顔もありそうで、という辺りまでは実に引っ張る。ただ、これも途中から方向性が怪しくなって、真相はけっこう面白いのだけれど、その驚かせ方の段取りがぐだぐだ。もう少しストーリーを練れば、これは悪くない作品になったはずだ。
ということで、かなり否定的な感想になってしまったが、こういうのも含めてクラシックの探偵小説を読む楽しみである。腐してはいるが同時に面白がって読んでいる自分もいるわけで、傑作ばかりが読書ではないよね、というのが本日のまとめ。
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>オススメの「殺されに来る」早速読んでみました。
ええと、決してオススメしているわけではないんですが(笑)。
でもこの作品に関しては、設定も真相も悪くないですね。あと、おっしゃるように確かに文章は読みやすいです。これでストーリー作りがうまければ、本当のオススメ作品になったかと思います。