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マージェリー・アリンガム『幻の屋敷 キャンピオン氏の事件簿II』(創元推理文庫)
マージェリー・アリンガムの短編集『幻の屋敷 キャンピオン氏の事件簿II』を読む。シリーズ探偵、アルバート・キャンピオン氏の活躍を作品発表順にまとめた日本オリジナルの短編集第二弾である。
収録作は以下のとおり。
The Case of the Name on the Wrapper「綴られた名前」
The Case of the Hat Trick「魔法の帽子」
Safe as Houses「幻の屋敷」
Unseen Door「見えないドア」
A Matter of Form「極秘書類」
Mr. Campion's Lucky Day「キャンピオン氏の幸運な一日」
Face Value「面子の問題」
Mum Knows Best「ママは何でも知っている」
One Morning They'll Hang Him「ある朝、絞首台に」
The Curious Affair in Nut Row「奇人横丁の怪事件」
Word in Season「聖夜の言葉」
What to Do with an Aging Detective「年老いてきた探偵をどうすべきか」(エッセイ)

前巻『窓辺の老人 キャンピオン氏の事件簿 I』同様、思いのほか楽しい読み物である。海外の本格ミステリでこの味わいはなかなか得難い。まずはおすすめといっておきたい。
その魅力の秘密だが、これは前巻の感想でも書いたとおり、バラエティに富んだ内容にある。ほんの数年前までは、時代によって作風が変化していったという文脈で語られることの多かったアリンガムだが、その本質は非常に多様性に富み、サービス精神も旺盛な作家であるとみていいようだ。だから作風が変化していったというよりは、もともと持っていた引き出しの中から、時代の要求や著者自身の思惑によって、出すものを変えていっただけではないだろうか。
短篇の場合、そういった縛りから解き放たれている印象で、二巻目でも冒険や推理、サスペンス、ロマンスなど、方向性が異なる作品がまんべんなく混じり合っている。しかも内容に応じてユーモアでまとめてみたり、怪奇性を打ち出してみたり、ときにはファンタジーとして落とすこともやってのける。実にお話作りがうまく、当たり外れが少ないのも見事だ。
長篇ではどうしてもすでに確立したイメージや先入観で読んでしまい、そのくせ思っていた作風とは異なる場合も多かったせいか、個人的にはなかなか作家アリンガムの本質を理解できなかったのだが、前巻と本書でそういう部分を消化できたのは大きな収穫である。
魅力その二としては、シリーズ探偵アルバート・キャンピオン氏のキャラクターも忘れてはならない。いわゆる草食系といっていいのだろうが、黄金期の名探偵としては珍しく、クセが少なくて穏やかな好男子。それが作品の雰囲気にもマッチして読後感もなかなかいい。
キャンピオン氏が他の登場人物を見る目もどこか温かく、探偵特有の鋭い観察眼だけでないところが好印象。
逆に物足りない部分としては、謎解き部分のゆるさがあげられる。
上でも書いたようにバラエティに富んだ作品なので、そもそもアリンガムが必ずしも本格ミステリを書こうとしていない側面もあるのだが、個人的にはもう少しハードな本格があってもいいのかなとは思う。
実際、伏線を張ったり、構成を変えるだけでグッと本格っぽくなる作品は少なくなく、もったいないとしかいいようがない。
まあ、それはアリンガム自身も承知のうえで、あくまで目指すところが違うのだろうと推察されるけれど。
印象に残った作品をあげておくと、奇妙な味を感じさせる『魔法の帽子』、謎の設定が魅力的な『幻の屋敷』、不可能犯罪を扱った『見えないドア』あたりか。
マイ・フェイヴァリットは『聖夜の言葉』。本格ミステリどころかファンタジーになってしまっているけれど、犬好きには堪えられない素敵なクリスマスストーリーである。
収録作は以下のとおり。
The Case of the Name on the Wrapper「綴られた名前」
The Case of the Hat Trick「魔法の帽子」
Safe as Houses「幻の屋敷」
Unseen Door「見えないドア」
A Matter of Form「極秘書類」
Mr. Campion's Lucky Day「キャンピオン氏の幸運な一日」
Face Value「面子の問題」
Mum Knows Best「ママは何でも知っている」
One Morning They'll Hang Him「ある朝、絞首台に」
The Curious Affair in Nut Row「奇人横丁の怪事件」
Word in Season「聖夜の言葉」
What to Do with an Aging Detective「年老いてきた探偵をどうすべきか」(エッセイ)

前巻『窓辺の老人 キャンピオン氏の事件簿 I』同様、思いのほか楽しい読み物である。海外の本格ミステリでこの味わいはなかなか得難い。まずはおすすめといっておきたい。
その魅力の秘密だが、これは前巻の感想でも書いたとおり、バラエティに富んだ内容にある。ほんの数年前までは、時代によって作風が変化していったという文脈で語られることの多かったアリンガムだが、その本質は非常に多様性に富み、サービス精神も旺盛な作家であるとみていいようだ。だから作風が変化していったというよりは、もともと持っていた引き出しの中から、時代の要求や著者自身の思惑によって、出すものを変えていっただけではないだろうか。
短篇の場合、そういった縛りから解き放たれている印象で、二巻目でも冒険や推理、サスペンス、ロマンスなど、方向性が異なる作品がまんべんなく混じり合っている。しかも内容に応じてユーモアでまとめてみたり、怪奇性を打ち出してみたり、ときにはファンタジーとして落とすこともやってのける。実にお話作りがうまく、当たり外れが少ないのも見事だ。
長篇ではどうしてもすでに確立したイメージや先入観で読んでしまい、そのくせ思っていた作風とは異なる場合も多かったせいか、個人的にはなかなか作家アリンガムの本質を理解できなかったのだが、前巻と本書でそういう部分を消化できたのは大きな収穫である。
魅力その二としては、シリーズ探偵アルバート・キャンピオン氏のキャラクターも忘れてはならない。いわゆる草食系といっていいのだろうが、黄金期の名探偵としては珍しく、クセが少なくて穏やかな好男子。それが作品の雰囲気にもマッチして読後感もなかなかいい。
キャンピオン氏が他の登場人物を見る目もどこか温かく、探偵特有の鋭い観察眼だけでないところが好印象。
逆に物足りない部分としては、謎解き部分のゆるさがあげられる。
上でも書いたようにバラエティに富んだ作品なので、そもそもアリンガムが必ずしも本格ミステリを書こうとしていない側面もあるのだが、個人的にはもう少しハードな本格があってもいいのかなとは思う。
実際、伏線を張ったり、構成を変えるだけでグッと本格っぽくなる作品は少なくなく、もったいないとしかいいようがない。
まあ、それはアリンガム自身も承知のうえで、あくまで目指すところが違うのだろうと推察されるけれど。
印象に残った作品をあげておくと、奇妙な味を感じさせる『魔法の帽子』、謎の設定が魅力的な『幻の屋敷』、不可能犯罪を扱った『見えないドア』あたりか。
マイ・フェイヴァリットは『聖夜の言葉』。本格ミステリどころかファンタジーになってしまっているけれど、犬好きには堪えられない素敵なクリスマスストーリーである。
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