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森下雨村『消えたダイヤ』(河出文庫)
森下雨村の『消えたダイヤ』を読む。
昨年の夏頃、唐突に河出文庫から『白骨の処女』が刊行されたときも驚いたけれど、それから程なくして本書『消えたダイヤ』が出たときはもっと驚いた。つまりこれって『白骨の処女』がそこそこ売れたということだよねぇ?
当時の他の探偵作家に比べると意外にクセの少ない作品という印象のある雨村だが、むしろそれがかえって今の読者には新鮮なのか、確たる理由はわからないが、とりあえずこの調子で今後も続いてくれると嬉しいが。

さて、まずはストーリー。
大正××年、ウラジオストックから一路敦賀を目指していた定期船鳳栄馬丸が、暗礁に乗り上げるという海難事故を起こした。沈みゆく船から懸命に救命ボートで脱出しようとする乗客たち。その阿鼻叫喚のさなか、一人の少女に話かける男がいた。ボートには女性子供が優先されるから自分はもう助からない、どうか自分の代わりにこの貴重品をある人物に届けてくれというのだ。少女はその頼みを聞きいれ、荷物を受け取るとボートに乗り込んだのであった。
ところ変わって東京は銀座のとあるカフェ。若いカップルの敏夫と咲子は退屈な毎日を嫌い、どこかに面白い仕事はないものかと、新聞に求職広告を出そうという話になる。
ところが敏夫と別れて買い物へ向かおうとした咲子に、いきなり謎の男が話しかけてきた。なんとカフェで二人の会話を立ち聞きし、さっそく仕事話をもちかけてきたのだ。話によると、関西・北陸方面の病院を巡り、人を探してほしいというのだが……。
というのが序盤の展開。話はここからどんどん転がり、ロシア・ロマノフ王朝に伝わるダイヤモンドをめぐり、敵味方入り乱れてのダイヤ争奪戦が繰り広げられるという一席。
初代「新青年」編集長を勤めた森下雨村は日本に探偵小説を定着させるべく、一般の読者に受け入れられやすい通俗的なスリラーを量産した作家でもあるのだが、本書もその例に漏れない。本格要素はほとんどないけれど、生きのいいキャラクターとスピーディーな展開で、読者を退屈させることなく物語を進めていく。
もちろんそれなりの欠点はある。御都合主義は多いし、犯人の説明的すぎる独白やラストでようやく明らかになる事件の背景など、古くさい演出も少なくはない。
しかし、それらに目をつぶれば、上でも書いたようにストーリーは走っているし、ラストでのどんでん返しもちゃんと用意されている(ほとんど予想どおりなのはご愛敬)など、スリラーとしては悪くない仕上がりである。総合点では『白骨の処女』のほうが上かなとは思うが、単に楽しさのみを求めるなら『消えたダイヤ』といったところか。
ちなみに解説を読んでちょっと驚いたのだが、本作はもともと少女雑誌に連載された作品とのこと。
雨村の作品は当時の探偵小説にしては珍しくスマートな印象があって、本作もとりわけ健全だなぁと感じていたのだが、まさか少女向けだとは。
確かに言われると思い当たる点はいくつかあるのだけれど、文章自体もそれほど少女向けという感じでもないし、読んでいる間はまったく気がつかなかった。本書最大のトリックはもしかしたらこれかもしれない(苦笑)。
昨年の夏頃、唐突に河出文庫から『白骨の処女』が刊行されたときも驚いたけれど、それから程なくして本書『消えたダイヤ』が出たときはもっと驚いた。つまりこれって『白骨の処女』がそこそこ売れたということだよねぇ?
当時の他の探偵作家に比べると意外にクセの少ない作品という印象のある雨村だが、むしろそれがかえって今の読者には新鮮なのか、確たる理由はわからないが、とりあえずこの調子で今後も続いてくれると嬉しいが。

さて、まずはストーリー。
大正××年、ウラジオストックから一路敦賀を目指していた定期船鳳栄馬丸が、暗礁に乗り上げるという海難事故を起こした。沈みゆく船から懸命に救命ボートで脱出しようとする乗客たち。その阿鼻叫喚のさなか、一人の少女に話かける男がいた。ボートには女性子供が優先されるから自分はもう助からない、どうか自分の代わりにこの貴重品をある人物に届けてくれというのだ。少女はその頼みを聞きいれ、荷物を受け取るとボートに乗り込んだのであった。
ところ変わって東京は銀座のとあるカフェ。若いカップルの敏夫と咲子は退屈な毎日を嫌い、どこかに面白い仕事はないものかと、新聞に求職広告を出そうという話になる。
ところが敏夫と別れて買い物へ向かおうとした咲子に、いきなり謎の男が話しかけてきた。なんとカフェで二人の会話を立ち聞きし、さっそく仕事話をもちかけてきたのだ。話によると、関西・北陸方面の病院を巡り、人を探してほしいというのだが……。
というのが序盤の展開。話はここからどんどん転がり、ロシア・ロマノフ王朝に伝わるダイヤモンドをめぐり、敵味方入り乱れてのダイヤ争奪戦が繰り広げられるという一席。
初代「新青年」編集長を勤めた森下雨村は日本に探偵小説を定着させるべく、一般の読者に受け入れられやすい通俗的なスリラーを量産した作家でもあるのだが、本書もその例に漏れない。本格要素はほとんどないけれど、生きのいいキャラクターとスピーディーな展開で、読者を退屈させることなく物語を進めていく。
もちろんそれなりの欠点はある。御都合主義は多いし、犯人の説明的すぎる独白やラストでようやく明らかになる事件の背景など、古くさい演出も少なくはない。
しかし、それらに目をつぶれば、上でも書いたようにストーリーは走っているし、ラストでのどんでん返しもちゃんと用意されている(ほとんど予想どおりなのはご愛敬)など、スリラーとしては悪くない仕上がりである。総合点では『白骨の処女』のほうが上かなとは思うが、単に楽しさのみを求めるなら『消えたダイヤ』といったところか。
ちなみに解説を読んでちょっと驚いたのだが、本作はもともと少女雑誌に連載された作品とのこと。
雨村の作品は当時の探偵小説にしては珍しくスマートな印象があって、本作もとりわけ健全だなぁと感じていたのだが、まさか少女向けだとは。
確かに言われると思い当たる点はいくつかあるのだけれど、文章自体もそれほど少女向けという感じでもないし、読んでいる間はまったく気がつかなかった。本書最大のトリックはもしかしたらこれかもしれない(苦笑)。
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