- Date: Thu 26 01 2017
- Category: 評論・エッセイ 木原善彦
- Community: テーマ "評論集" ジャンル "本・雑誌"
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木原善彦『実験する小説たち 物語るとは別の仕方で』(彩流社)
ガイドブックがけっこう好きだという話は過去に何度か書いているが、またまた興味深いガイドブックがあったので紹介したい。
ものは木原善彦の『実験する小説たち 物語るとは別の仕方で』。いわゆる「実権小説」に絞ったガイドブックである。著者は米文学者で、トマス・ピンチョンの研究者としても知られている人だ。

まず実験小説って何?という話なのだが、簡単にいうと、小説そのものの可能性を切り開き、創作上の実験的な試みを追求する小説のことである。
純文学でも大衆文学でもいいのだけれど、いわゆる「普通の小説」は、人間の心理や営みを探求したり、物語の面白さを追求する。しかし、「実験小説」は言語による芸術としての存在そのものがテーマ。要は何を描くかではなく、どのように描くか。肝はここである。
本書では、時系列、言葉遊び、メタフィクション、視覚的企て、マルチメディア性等々……さまざまな切り口で描かれた作品が、内容紹介、その狙い、読みどころ、おすすめの類書に至るまで、けっこうな濃度で解説されており、実に楽しい。
相当踏み込んだところまで解説しているのだけれど、作品の性質上、ネタバレなどはあまり気にならず、むしろその詳細な解説のおかげで、ますますこれは読んでみたいという気持ちにさせてくれる。
例えば、ウォルター・アビッシュの『アルファベット式のアフリカ』は、全五十二章から成っているのだけれど、第一章では a で始まる単語しか使わずに書かれている。そして第二章では a と b から始まる単語、そして第三章ではa と b と c という具合に、少しずつ使える単語が増えてゆく仕組みなのだ(ちなみに第二十六章ではすべての語が使えるようになるが、次の章からは逆戻りしてひとつずつ減ってゆく)。
また、マーティン・エイミスの『時の矢』では、主人公の人生が死から誕生へと、まったく逆回しで展開される。
こうした紹介だけではなかなかその面白さも伝わりにくいのだが、本書では訳文はもちろんときには原文も合わせて一部抜粋してくれるので助かる。とはいえ、これらの小説が本当に成立しているのか、よしんば成立しているとしても、果たして成功しているのか、正直、不明確なところも多いのは確かだ。
ただ、小説の可能性を探る実験として、その試みはどれもこれもむちゃくちゃ面白い。少なくとも筒井康隆や清水義範あたりの作品が好きな人なら、この豊穣なる実験小説の恵みに身悶えして喜ぶことは間違いない。
管理人も今でこそミステリ中心で読んでいるが、実は若いときはこういうものを好んで読んでいる時期があって、それは圧倒的に筒井康隆の影響だった。
本書でも紹介されている『残像に口紅を』をはじめ『朝のガスパール』や『虚航船団』『虚人たち』など、筒井作品だけでも枚挙にいとまがないほどで、さらには筒井のエッセイ本をきっかけに南米文学やポストモダン文学なども読みふけった記憶がある。
とはいえ管理人の文学的知識などたかが知れている。本書はそんな人間が読んでも理解できる程度にわかりやすく書かれているのもありがたい。
とにかくわかりやすくて刺激的な一冊。むしろ普段は小説など読まない人、あるいは最近めっきり読書しなくなった人が読んだ方が、より楽しめるのかも知れない。
ものは木原善彦の『実験する小説たち 物語るとは別の仕方で』。いわゆる「実権小説」に絞ったガイドブックである。著者は米文学者で、トマス・ピンチョンの研究者としても知られている人だ。

まず実験小説って何?という話なのだが、簡単にいうと、小説そのものの可能性を切り開き、創作上の実験的な試みを追求する小説のことである。
純文学でも大衆文学でもいいのだけれど、いわゆる「普通の小説」は、人間の心理や営みを探求したり、物語の面白さを追求する。しかし、「実験小説」は言語による芸術としての存在そのものがテーマ。要は何を描くかではなく、どのように描くか。肝はここである。
本書では、時系列、言葉遊び、メタフィクション、視覚的企て、マルチメディア性等々……さまざまな切り口で描かれた作品が、内容紹介、その狙い、読みどころ、おすすめの類書に至るまで、けっこうな濃度で解説されており、実に楽しい。
相当踏み込んだところまで解説しているのだけれど、作品の性質上、ネタバレなどはあまり気にならず、むしろその詳細な解説のおかげで、ますますこれは読んでみたいという気持ちにさせてくれる。
例えば、ウォルター・アビッシュの『アルファベット式のアフリカ』は、全五十二章から成っているのだけれど、第一章では a で始まる単語しか使わずに書かれている。そして第二章では a と b から始まる単語、そして第三章ではa と b と c という具合に、少しずつ使える単語が増えてゆく仕組みなのだ(ちなみに第二十六章ではすべての語が使えるようになるが、次の章からは逆戻りしてひとつずつ減ってゆく)。
また、マーティン・エイミスの『時の矢』では、主人公の人生が死から誕生へと、まったく逆回しで展開される。
こうした紹介だけではなかなかその面白さも伝わりにくいのだが、本書では訳文はもちろんときには原文も合わせて一部抜粋してくれるので助かる。とはいえ、これらの小説が本当に成立しているのか、よしんば成立しているとしても、果たして成功しているのか、正直、不明確なところも多いのは確かだ。
ただ、小説の可能性を探る実験として、その試みはどれもこれもむちゃくちゃ面白い。少なくとも筒井康隆や清水義範あたりの作品が好きな人なら、この豊穣なる実験小説の恵みに身悶えして喜ぶことは間違いない。
管理人も今でこそミステリ中心で読んでいるが、実は若いときはこういうものを好んで読んでいる時期があって、それは圧倒的に筒井康隆の影響だった。
本書でも紹介されている『残像に口紅を』をはじめ『朝のガスパール』や『虚航船団』『虚人たち』など、筒井作品だけでも枚挙にいとまがないほどで、さらには筒井のエッセイ本をきっかけに南米文学やポストモダン文学なども読みふけった記憶がある。
とはいえ管理人の文学的知識などたかが知れている。本書はそんな人間が読んでも理解できる程度にわかりやすく書かれているのもありがたい。
とにかくわかりやすくて刺激的な一冊。むしろ普段は小説など読まない人、あるいは最近めっきり読書しなくなった人が読んだ方が、より楽しめるのかも知れない。
面白かったですよ。まあ、紹介されているうち、どれだけ読んでいるかにもよるでしょうが。私は知らない作品もけっこうあったのでより楽しめました。
あと、実際これ全部を読むのは相当ハードな気がするので(試みは面白いけれど、実際読むのは辛そうなものもあるし)、こういう形であれ中身を理解できるのは実にありがたいですね。