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 コリン・ワトスンの『浴室には誰もいない』を読む。一作目の『愚者たちの棺』が紹介されたとき、版元がディヴァインを引き合いに出して英国の本格派とやったもんだから、読み終えて何となく違和感を感じた読者も多かったのではなかろうか。
 かくいう管理人もスタイルとしてはむしろ本格よりは警察小説に近いかなとか、シリーズ全体の狙いだとかが気になって、内容は悪くなかったけれど、どこかしっくりこなかったことも事実。もちろんどんな作風・ジャンルであろうと面白ければそれでいいのだが、今回もバークリー激賞とか法月倫太曰く「ワトスンの魅力に開眼した」とか景気のよい推薦文が踊っているので、逆にちょっと不安(苦笑)。
 とりあえず本書ではとにかく著者の狙いというか作風というか、そのあたりをすっきりさせてもらいたいというのが裏テーマであった。

 こんな話。
 田舎町であっても人は素朴で善良とは限らない。港町フラックスボローに住む人々もまた都会人と何ら変わず、ひとクセもふたクセもある者ばかり。今日も今日とて警察に怪しい匿名の手紙が届き、パーブライト警部は捜査に向かう。
 そこは家主と下宿人のセールスマン、二人の男が住む一軒家。しかし、二人とも行方は知れず、あろうことか浴槽では人間が硫酸で溶かされた痕跡が発見される。どちらかがどちらかを殺害したのか、それとも二人とも事件に巻き込まれたのか。
 そこへ現れたのが、場違いな感じの情報部員二人組。彼らは警察に下宿人の素性を明かし、独自の調査にとりかかる。果たしてその結末は……?

 浴室には誰もいない

 ああ、なるほど。今度はこうきたか。
 バークリーが激賞する理由は何となくわかる気がする。バークリーの作風自体、オーソドックスな本格ミステリの体をとりながら、実はその裏で常に本格ミステリそのものの可能性を面白おかしく実験しているようなものが多いわけで、コリン・ワトスンもそれに通ずるところがあるのだ。
 本作で注目されるのは何といっても情報部員の存在だろう。シリーズ探偵であるパーブライト警部との捜査合戦というスタイルをとりながら、その実、そこに推理合戦の要素はほとんどない。それどころか情報部員たちはもっぱらスパイスリラーのパロディのような存在として描かれる。さらには被害者と思しき男の素性や行為が明らかになることで、ガッツリとダメを押す念の入れ具合。この意地悪さはバークリーとも共通する部分だ。
 また、単にスパイスリラーのパロディを味付けとするだけでなく、なおかつ本格ミステリを成立させる一要素として融合させるところが、本作の大きなポイントだろう。プロットやトリック、ロジックなど、本格ミステリを構成するのに必要な要素はいろいろあるが、思うにそういった通常の要素、枠組みといってもいいのだが、それをひとひねりしてトライアルするのがコリン・ワトスンの特徴なのかもしれない。
 まあ、完全に成功しているかと言われればちょっと無理やりなところもあるわけで、この辺が評価の分かれ目か。しいていえば本作では動機が肝になるわけだが、いやあ、よくやるわ、としか言いようがない。まあ、嫌いじゃないけれど(苦笑)。

 ただし。ただしである。『愚者たちの棺』と『浴室には誰もいない』をもってワトスンをこういうタイプというには、実はまだ早い気もしている。もしかしたら著者は毎回、方向性を変えているふしもあるわけで、これを確かめるには残りの作品も読むしかないのだろう。
 ということで、こうなったら創元推理文庫には今後も精力的に翻訳を進めてもらいたいものである。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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