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 ミステリ珍本全集の掉尾を飾る鷲尾三郎『屍の記録』を読む。
 クラシックミステリの復刻がもはやブームの枠を超え、マニア相手の定番ビジネスとして定着した感もある昨今――いやな書き方だな(笑)――この十何年ほどで相当にレアな作家や作品が紹介されてきたのだが、それでもなかなかお鉢が回ってこない作家もいるわけで、さしずめ鷲尾三郎などはその筆頭格であろう。
 考えると不思議な話である。鷲尾三郎は作品数もそれなりにあるし、これまでのラインナップをみると論創ミステリ叢書でまとめられても全然おかしくないレベル。しかも、相変わらず古書価も相当なもので、人気も決して低くはないはずなのに。ううむ。

 まあ、それはともかくとして、そんな渇きを癒してくれる嬉しい一冊が本書『屍の記録』である。

 屍の記録

PART 1 『屍の記録』
「屍の記録」
「雪崩」

PART 2 『呪縛の沼』
「呪縛の沼」

PART 3 『単行本未収録短編集』
「生きている人形」
「魚臭」
「死の影」

 収録作は以上六作。全三部構成となっており、PART 1では春陽堂書店版『屍の記録』に収録された長編「屍の記録」と中編「雪崩」を丸ごと収録、PART 2は長編「呪縛の沼」、PART 3ではこれまで単行本未収録だった短編三作を加えた豪華版である。

 まずは表題作の「屍の記録」だが、本作は講談社が公募した〈書下ろし長編探偵小説全集〉最終巻の座を、鮎川哲也の『黒いトランク』と争った作品で、著者の長編ではかなり知られているほうだろう。
 代々の当主が謎の失踪を遂げる京都伏見の老舗造り酒屋。その若き当主がまたも消息を絶つ。当主の弟、本間新也の友人で探偵小説家の牟礼順吉は新也に請われて当地を訪れるが、本間家には失踪をめぐる狐の呪いの伝説があった……。
 複雑でどろどろの人間関係や狐の呪い、代々の当主消失の謎など、横溝正史ばりの盛り込み具合で、その世界観が抜群によろしい。一応は探偵役兼主人公をこなす牟礼順吉が、傍観者としてでなく、自身も事件の渦中に巻き込まれ、挙句にロマンスにまで発展する展開も楽しく、本格でこのリーダビリティはなかなかのものだろう。
 ここで終わればどんな傑作かと思うのだが、本格探偵小説としては肝心の部分が全然うまくいっていないのがご愛嬌(苦笑)。全体に粗いというか説明不足。何よりメイントリックがひどい。噂には聞いていたが、ああ、こういうレベルだったのかと(笑)。
 ということで間違っても傑作にはほど遠いのだが、この圧倒的な長所と短所のバランスの悪さが変な魅力となって、実に忘れられない作品となった。 まさにミステリ珍本全集にふさわしい一作といえるだろう。

 中編の 「雪崩」は、叔母の財産を狙う若いカップルが、殺人計画を企てる話。
 著者曰く「ハードボイルドの技法を用いた倒叙探偵小説」といいことだが、ううむ、基本的には文体のせいもあって全然ハードボイルドには思えなかったし、あえて倒叙というほどの仕掛けもない。
 むしろ、その辺にいる普通の若者がいかにして転落していくのかを描いた日本風ノワールあるいはクライムノベルとして読むべき作品で、主人公カップルの倫理観が徐々に壊れ、それに比例して犯行も少しずつエスカレートしてゆく展開が不気味。これをハードボイルドと言われると困るが、作品自体の質はなかなか悪くない。

  「呪縛の沼」も「屍の記録」同様、京都を舞台にした本格探偵小説である。
 三木氏のもとに届いた手紙。そこには京都・源泥池での事件を予兆する謎のメッセージが記されていた。知人の紹介を頼りに京都へ向かった三木氏は、目的の地に高名な医学者早川博士の結核療養所があることを知るが、時すでに遅く、早川博士は殺害されてしまっていた……。
 「屍の記録」と共通しているのは京都という舞台だけではない。長所や短所もまた、ほぼ同じような印象である。
 結核療養所という閉ざされた空間で渦巻くさまざまな人間関係。その療養所をとりまく源泥池という存在がいっそう雰囲気を盛り上げる。ストーリー展開も悪くなく、とりわけ終盤に発生するある事件は壮絶。本格でここまでの描写はあまり記憶がないほどだ。
 ただ、いかんせん短所も「屍の記録」同様で、本格としてはいまひとつ。終盤の謎解きもかなりダレ気味で余韻のかけらもないのが残念だ。

 「生きている人形」、「魚臭」、「死の影」の三短編は意外なことに幻想小説の類である。
 小品ゆえアイディア自体はそれほど期待するほどのものではないが、 「生きている人形」は叙情性にあふれ、絵画的な美しさを感じられて楽しめた。
 「魚臭」、「死の影」はテーマ自体はよくあるものだけれど、それよりも会話文の軽さがいただけない。もっとしっとりと、それこそ「生きている人形」のように書くだけでずいぶん良くなると思うのだが、なぜああもチープにまとめてしまうのか不思議である。

 というわけで、そろそろまとめ。
 珍しい作品だからというだけでなく、鷲尾三郎の作風の幅広さを理解するのにもよい一冊である。本格、クライムノベル、幻想小説の読み比べとまではいかないが、それぞれの持ち味はよく出ているし、以前に河出文庫で刊行された『鷲尾三郎名作選 文殊の罠』を合わせて読めば、本格を中心としたところはだいたい掴めそうな感じである。あとはアクション小説の類が残るが、こちらはそれこそ論創ミステリ叢書でまとめてもらいたいところだが、ううむ、やはり難しいかな。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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