- Date: Sat 08 04 2017
- Category: 映画・DVD 原作:アガサ・クリスティ
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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長坂秀佳版『そして誰もいなくなった』
なんだか最近またアガサ・クリスティーの映像化が目につく。半年前にはNHK-BSでBBCが製作した『そして誰もいなくなった』を放映していたけれど、今度はなんとテレビ朝日が日本初の映像化という謳い文句で『そして誰もいなくなった』を二夜にわたって放映していた。
BBC版は録画しそこねてしまって、まだ観ていないのだけれど、テレビ朝日版はこの週末でようやく録画しておいたのを観ることができたので、少し感想を残しておく。
ちなみにBBC版は評判も良いようなので、発売されたばかりのDVDを買ってしまった。こちらもそのうちに視聴したいところである。
さてテレビ朝日版『そして誰もいなくなった』だが、ストーリーは今更という気もするが、現代の日本に置き換えた内容であり、かつオリジナルの部分もあるということなので軽く紹介しておこう。ちなみに脚本は乱歩賞作家でもある長坂秀佳である。
※なお、今回は有名作品のうえ、すでに放映済みということもあるので、ある程度はネタバレありで進めます。原作未読、テレビ版未視聴の方はご注意を。
舞台は八丈島沖に浮かぶ絶海の孤島「兵隊島」。一件のホテルだけが存在するその孤島で、ホテルの宿泊客と従業員を含む十名の男女の遺体が発見される。そのすべてが他殺と思われ、しかも島全体が密室状態という状況のなか、いったい犯人はどうやって島を脱出したのか。警視庁捜査一課の相国寺警部が島に派遣されるが……。
話はその数日前に遡る。「兵隊島」のホテルのオーナーによって、八名の男女がホテルに招待された。元国会議員に元刑事、元女優、元水泳選手、推理作家、元判事、元傭兵、女医と職業はさまざま。何ひとつ共通点のないように思えた彼らだったが、その夜のディナーで共通点が明らかになった。突如、ホテルに謎の声が響き渡り、彼らが過去に犯した罪を一人ずつ告発していったのだ。
姿を見せないオーナーの狙いは何なのか。執事夫婦を含んだ十人が互いの過去を話し合っていたとき、招待客の一人が全員注視のなかで毒殺される。そして、その事件を皮切りに一人、また一人と殺されてゆく……。
二夜連続の前後編という構成、オリジナル部分も追加ということで、どうしても比べたくなるのがフジテレビで2015年に制作された『オリエント急行殺人事件』だろう。
ポアロ役の野村萬斎はじめ豪華キャストが良かったのはもちろんだが、構成が悪くなかった。つまり二夜連続のうち前編を原作どおりに、後編を事件の前日譚すなわちオリジナルドラマとして構成したのである。これなら原作ファンも納得させつつ、新規ファンにもアピールできるという仕組みだ。
テレビ朝日版『そして誰もいなくなった』もその構成を意識したか、前編では主に原作の八割程度まで放映し、後編では原作の残り二割に加え、オリジナルの警察の捜査部分を加えている。
だが、それがどうも効果的には思えなかった。
まず原作の部分を二夜に分けたことで、せっかくのサスペンスや緊張が途絶えてしまったことが悔やまれる。最後の被害者については演者が演者なので相当にインパクトあるシーンなのだから、それを前編のラストシーンとしたほうが、はるかに興味を持続させることができたはず。
また、オリジナル部分については警察の捜査や推理が中心となるのだが、これも狙いは悪くないけれども、肝心の警察の捜査がただの宝探し的なところに終始しており、推理部分もそれほどのものではない。
要はオリジナルの捜査や推理シーンだけでは後編(第二夜)全部を埋めるには至らなかったところに、ミステリドラマとしての本作の限界がある。
正直、今回のオリジナル部分はミステリドラマとしては腰砕けであり、まったく不要である。
むしろクリスティーがもともと芝居や映画用に書き下ろしたバージョンのラストを用いて、それを単純に前後編で作ってくれた方がはるかに良いものになったのではないか。
実際のところ、途中で後編(第二夜)に続いたことを除けば、豪華キャスト共演ということもあって原作どおりの前編(第一夜)はそれほど悪くなかった。
渡瀬恒彦、津川雅彦、余貴美子、柳葉敏郎、大地真央、向井理、國村隼、橋爪功、藤真利子というメンバーはなかなかのもので、しかも第一被害者に向井理をもってくるところがにくい。
まあ、この面子なら確かに冷静にみれば向井理が第一被害者にもっとも似合っているのだが、先入観ですっかり九番目の被害者だと思っていたのだ。まずここでいい意味で裏切られると同時に、スタッフにも相当気合いが入っていることがうかがえて気持ちよい。
演出も悪くない。ややホラーチックにまとめているのは気になったが、それ以外は全体的に手堅く、各人の回想などを差し込んでサスペンスを高める感じはよかった。
各人の過去に犯した罪というのは、個々にはそれほど大きな意味があるわけではないのだけれど、今までの映画などでは、それでもかなり説明不足のものもあって歯がゆいところだったのである。同じ映像をリピートするのは手抜きっぽい感じもしたが、まあ説明不足よりはよいでしょう。
また、現代風にアレンジされている箇所はまずまず無難な感じで気にならなかった。
そんなわけで前編(第一夜)については、それほど悪くないと思って観ていたのだが、第二夜は前述のとおり、なんだか典型的な蛇足を観ているような感じになってしまった。
批判ついでに書いておくと、探偵役と犯人役のキャラクター設定にも疑問がある。
探偵役でいうと、沢村一樹演じる警部が昔の名探偵のパロディのような変人タイプ。対する犯人役は渡瀬恒彦だが、正義感と殺害衝動が同居し、かつ自己顕示欲も強いという異常人格者。極論すればどちらもいわゆるサイコな方々である。もちろん要素として入れたくなる気持ちはわからないでもないが、なんだかリアルな前編(第一夜)の恐怖感が、後編(第二夜)で戯画化されるようなイメージで、ちょっと違うんじゃないのかと感じた次第。
そう考えると、フジテレビが放送した三谷幸喜脚本による『オリエント急行殺人事件』は、なかなかよくできていた作品である。本作はそちらのようにオリジナル部分が作りにくい物語でもあるので、現代の日本にうまくアレンジした形で、通常の芝居や映画用のバージョンで作っていれば、かなりの傑作になったのではないか。
最後になるが、先日逝去された渡瀬恒彦の演技は、あまりに役柄と現実がシンクロしており胸を打った。こういう見方は邪道だけれども、彼の最後の力を振り絞った演技こそが本作最大の見どころなのかもしれない。
BBC版は録画しそこねてしまって、まだ観ていないのだけれど、テレビ朝日版はこの週末でようやく録画しておいたのを観ることができたので、少し感想を残しておく。
ちなみにBBC版は評判も良いようなので、発売されたばかりのDVDを買ってしまった。こちらもそのうちに視聴したいところである。
さてテレビ朝日版『そして誰もいなくなった』だが、ストーリーは今更という気もするが、現代の日本に置き換えた内容であり、かつオリジナルの部分もあるということなので軽く紹介しておこう。ちなみに脚本は乱歩賞作家でもある長坂秀佳である。
※なお、今回は有名作品のうえ、すでに放映済みということもあるので、ある程度はネタバレありで進めます。原作未読、テレビ版未視聴の方はご注意を。
舞台は八丈島沖に浮かぶ絶海の孤島「兵隊島」。一件のホテルだけが存在するその孤島で、ホテルの宿泊客と従業員を含む十名の男女の遺体が発見される。そのすべてが他殺と思われ、しかも島全体が密室状態という状況のなか、いったい犯人はどうやって島を脱出したのか。警視庁捜査一課の相国寺警部が島に派遣されるが……。
話はその数日前に遡る。「兵隊島」のホテルのオーナーによって、八名の男女がホテルに招待された。元国会議員に元刑事、元女優、元水泳選手、推理作家、元判事、元傭兵、女医と職業はさまざま。何ひとつ共通点のないように思えた彼らだったが、その夜のディナーで共通点が明らかになった。突如、ホテルに謎の声が響き渡り、彼らが過去に犯した罪を一人ずつ告発していったのだ。
姿を見せないオーナーの狙いは何なのか。執事夫婦を含んだ十人が互いの過去を話し合っていたとき、招待客の一人が全員注視のなかで毒殺される。そして、その事件を皮切りに一人、また一人と殺されてゆく……。
二夜連続の前後編という構成、オリジナル部分も追加ということで、どうしても比べたくなるのがフジテレビで2015年に制作された『オリエント急行殺人事件』だろう。
ポアロ役の野村萬斎はじめ豪華キャストが良かったのはもちろんだが、構成が悪くなかった。つまり二夜連続のうち前編を原作どおりに、後編を事件の前日譚すなわちオリジナルドラマとして構成したのである。これなら原作ファンも納得させつつ、新規ファンにもアピールできるという仕組みだ。
テレビ朝日版『そして誰もいなくなった』もその構成を意識したか、前編では主に原作の八割程度まで放映し、後編では原作の残り二割に加え、オリジナルの警察の捜査部分を加えている。
だが、それがどうも効果的には思えなかった。
まず原作の部分を二夜に分けたことで、せっかくのサスペンスや緊張が途絶えてしまったことが悔やまれる。最後の被害者については演者が演者なので相当にインパクトあるシーンなのだから、それを前編のラストシーンとしたほうが、はるかに興味を持続させることができたはず。
また、オリジナル部分については警察の捜査や推理が中心となるのだが、これも狙いは悪くないけれども、肝心の警察の捜査がただの宝探し的なところに終始しており、推理部分もそれほどのものではない。
要はオリジナルの捜査や推理シーンだけでは後編(第二夜)全部を埋めるには至らなかったところに、ミステリドラマとしての本作の限界がある。
正直、今回のオリジナル部分はミステリドラマとしては腰砕けであり、まったく不要である。
むしろクリスティーがもともと芝居や映画用に書き下ろしたバージョンのラストを用いて、それを単純に前後編で作ってくれた方がはるかに良いものになったのではないか。
実際のところ、途中で後編(第二夜)に続いたことを除けば、豪華キャスト共演ということもあって原作どおりの前編(第一夜)はそれほど悪くなかった。
渡瀬恒彦、津川雅彦、余貴美子、柳葉敏郎、大地真央、向井理、國村隼、橋爪功、藤真利子というメンバーはなかなかのもので、しかも第一被害者に向井理をもってくるところがにくい。
まあ、この面子なら確かに冷静にみれば向井理が第一被害者にもっとも似合っているのだが、先入観ですっかり九番目の被害者だと思っていたのだ。まずここでいい意味で裏切られると同時に、スタッフにも相当気合いが入っていることがうかがえて気持ちよい。
演出も悪くない。ややホラーチックにまとめているのは気になったが、それ以外は全体的に手堅く、各人の回想などを差し込んでサスペンスを高める感じはよかった。
各人の過去に犯した罪というのは、個々にはそれほど大きな意味があるわけではないのだけれど、今までの映画などでは、それでもかなり説明不足のものもあって歯がゆいところだったのである。同じ映像をリピートするのは手抜きっぽい感じもしたが、まあ説明不足よりはよいでしょう。
また、現代風にアレンジされている箇所はまずまず無難な感じで気にならなかった。
そんなわけで前編(第一夜)については、それほど悪くないと思って観ていたのだが、第二夜は前述のとおり、なんだか典型的な蛇足を観ているような感じになってしまった。
批判ついでに書いておくと、探偵役と犯人役のキャラクター設定にも疑問がある。
探偵役でいうと、沢村一樹演じる警部が昔の名探偵のパロディのような変人タイプ。対する犯人役は渡瀬恒彦だが、正義感と殺害衝動が同居し、かつ自己顕示欲も強いという異常人格者。極論すればどちらもいわゆるサイコな方々である。もちろん要素として入れたくなる気持ちはわからないでもないが、なんだかリアルな前編(第一夜)の恐怖感が、後編(第二夜)で戯画化されるようなイメージで、ちょっと違うんじゃないのかと感じた次第。
そう考えると、フジテレビが放送した三谷幸喜脚本による『オリエント急行殺人事件』は、なかなかよくできていた作品である。本作はそちらのようにオリジナル部分が作りにくい物語でもあるので、現代の日本にうまくアレンジした形で、通常の芝居や映画用のバージョンで作っていれば、かなりの傑作になったのではないか。
最後になるが、先日逝去された渡瀬恒彦の演技は、あまりに役柄と現実がシンクロしており胸を打った。こういう見方は邪道だけれども、彼の最後の力を振り絞った演技こそが本作最大の見どころなのかもしれない。
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ですよねえ。私など向井さんの役はてっきり柳葉さんがやっていた役だと思っていたので。みなでワインを飲んでいるシーンで向井さんが中央にいったとき嫌な予感はしたのですが(苦笑)。
でもだからこそ原作・映画を知らない人には、相当な衝撃だったと思うので、それだけでも制作側のドヤ顔が目に浮かびます。