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マイクル・コナリー『転落の街(下)』(講談社文庫)
マイクル・コナリーの『転落の街(下)』読了。
今回、ややネタバレ気味ですので、未読の方はご注意を。

過去の婦女暴行事件と市議の息子の転落事件を捜査するというのが、本作の大雑把なストーリー。その二つの事件は密接に関係するというのではなく、今回はいわゆるモジュラー型。直接のつながりはないのだが、ボッシュの生き方に大きな影響を与える事件として描かれている。
まあ、考えたらこれまでの作品も結局、事件の本筋よりも、むしろその事件がボッシュにどのような影響を与えるか、すべてはそこに集約されているような気がする。
本作では特にそれが顕著。
事件を通して、組織やパートナーとの確執(毎度のことではあるが)が生まれたり、ボッシュが引退を考えるようになったり、娘マディとの交流を深めたり、さらには新しい恋人ができたりと、まあ忙しいこと。
もちろん、こういうサイドストーリーが縦に横にと張り巡らされることで、ボッシュ・シリーズの深みや厚みが増していることは間違いないし、だからこそファンとしては先が気になるのである。
管理人としてはボッシュのロマンスも去ることながら、娘マディとのやりとりがもっとも癒される部分ではある。刑事志望の彼女がボッシュをあっと言わせる部分はこれまでなら考えられない展開だが、ボッシュの引退問題、さらには彼女が成長して実際に警察に入ることまで考えさせるわけで、あざとさも若干は感じるけれど、やはりコナリーは上手くなったと思わずにはいられない。
また、こういうサイド・ストーリーの面白さだけでは、もちろんない。
肝心の二つの事件も、それぞれ単独で成立するぐらいの中身はある。
例えば市議の息子の転落事件では、殺人・事故・自殺という三つの選択肢を提示しつつ、この中でどんでん返しを見せてくれる手腕は鮮やか。死体についた傷やビデオなど、地味ながら説得力あるネタを小出しにしつつ、最後は意外な形で事件の様相を反転させる。おまけに、その事件をとりまく政治的状況でさらに一捻りする。
かたや過去の婦女暴行事件は、容疑者が当時八歳の少年だったという、ある意味、不可能犯罪的な状況を作り出す。まあ、さすがにこれは大した仕掛けもないのだが、オーソドックスなサイコスリラーという雰囲気で、転落事件ほどの面白みはないけれども、犯人逮捕のシーンはさすがに練られていて見事。こちらはボッシュの新しいロマンスが絡み、それに伴ってボッシュの刑事という人生そのものが問われるあたり、やはりただでは終わらない。
事件がボッシュにどのような影響を与えるか、すべてはそこに集約されているような気がすると先に書いたが、こうして要素要素を出してみると、ストーリーのメインとなる事件とサイドストーリーが実に巧みに融合されている印象だ。だからこそクライムストーリーでありながら、ボッシュ自身の物語にもなっているのだなと再確認した次第。
最近のボッシュ・シリーズは面白いことは面白いけれど、もうひとつ食い足りない部分もあっただけに、本作はかなり満足。次の『ブラックボックス』もぜひこの調子を期待したい。
今回、ややネタバレ気味ですので、未読の方はご注意を。

過去の婦女暴行事件と市議の息子の転落事件を捜査するというのが、本作の大雑把なストーリー。その二つの事件は密接に関係するというのではなく、今回はいわゆるモジュラー型。直接のつながりはないのだが、ボッシュの生き方に大きな影響を与える事件として描かれている。
まあ、考えたらこれまでの作品も結局、事件の本筋よりも、むしろその事件がボッシュにどのような影響を与えるか、すべてはそこに集約されているような気がする。
本作では特にそれが顕著。
事件を通して、組織やパートナーとの確執(毎度のことではあるが)が生まれたり、ボッシュが引退を考えるようになったり、娘マディとの交流を深めたり、さらには新しい恋人ができたりと、まあ忙しいこと。
もちろん、こういうサイドストーリーが縦に横にと張り巡らされることで、ボッシュ・シリーズの深みや厚みが増していることは間違いないし、だからこそファンとしては先が気になるのである。
管理人としてはボッシュのロマンスも去ることながら、娘マディとのやりとりがもっとも癒される部分ではある。刑事志望の彼女がボッシュをあっと言わせる部分はこれまでなら考えられない展開だが、ボッシュの引退問題、さらには彼女が成長して実際に警察に入ることまで考えさせるわけで、あざとさも若干は感じるけれど、やはりコナリーは上手くなったと思わずにはいられない。
また、こういうサイド・ストーリーの面白さだけでは、もちろんない。
肝心の二つの事件も、それぞれ単独で成立するぐらいの中身はある。
例えば市議の息子の転落事件では、殺人・事故・自殺という三つの選択肢を提示しつつ、この中でどんでん返しを見せてくれる手腕は鮮やか。死体についた傷やビデオなど、地味ながら説得力あるネタを小出しにしつつ、最後は意外な形で事件の様相を反転させる。おまけに、その事件をとりまく政治的状況でさらに一捻りする。
かたや過去の婦女暴行事件は、容疑者が当時八歳の少年だったという、ある意味、不可能犯罪的な状況を作り出す。まあ、さすがにこれは大した仕掛けもないのだが、オーソドックスなサイコスリラーという雰囲気で、転落事件ほどの面白みはないけれども、犯人逮捕のシーンはさすがに練られていて見事。こちらはボッシュの新しいロマンスが絡み、それに伴ってボッシュの刑事という人生そのものが問われるあたり、やはりただでは終わらない。
事件がボッシュにどのような影響を与えるか、すべてはそこに集約されているような気がすると先に書いたが、こうして要素要素を出してみると、ストーリーのメインとなる事件とサイドストーリーが実に巧みに融合されている印象だ。だからこそクライムストーリーでありながら、ボッシュ自身の物語にもなっているのだなと再確認した次第。
最近のボッシュ・シリーズは面白いことは面白いけれど、もうひとつ食い足りない部分もあっただけに、本作はかなり満足。次の『ブラックボックス』もぜひこの調子を期待したい。
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