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 論創ミステリ叢書から『丘美丈二郎探偵小説選I』を読む。
 丘美丈二郎は1949年に雑誌「宝石」の短編コンクールでデビューした、元パイロットという異色の経歴の持ち主。SFや探偵小説を中心に作品を残したが、小説の数は少なく、特撮ファンの管理人としては、東宝特撮映画の『地球防衛軍』『宇宙大戦争』『宇宙大怪獣ドゴラ』などの原作者としてのほうが馴染みがある。
 なお、丘美丈二郎の作品集は本邦初、しかも本書と続刊の二冊で全集となっており、毎度のこととはいえ実に素晴らしい。

 丘美丈二郎探偵小説選I

「鉛の小函」
「翡翠荘綺談」
「二十世紀の怪談」
「勝部良平のメモ」
「三角粉」
「ヴァイラス」
「佐門谷」

 収録作は以上。
 パイロットというキャリアが直接的に活かされた作品は少ないが、東大の工学部出身の作家ということもあってか、SFや怪奇をベースにしつつ、その真相は徹底して合理的・科学的に解明するというスタイルが大きな特徴だ。
 SFはもちろんだが、やはりそれが効果的なのは怪奇系の探偵小説においてである。現実からかけ離れた恐ろしい事件と、あっけないほどのリアリティ。そのギャップが大きいほど驚きも大きいし、印象にも残る。

 そういう意味では探偵小説作家として大化けする可能性を非常に秘めた作家だったと思うのだが、実際にはそうならなかったのは、ストーリー作りがそれほど上手くないことが大きかったのではないか。
 たとえば謎解きの場面など本来はクライマックスであるはずの部分が、そういう見せ場も作らず説明的に終わらせる作品が多く、実にもったいない。また、終盤の謎解きシーンにかぎらず、物語にそれほど直結しないところでの科学的・哲学的講義めいた文章も多く、この辺のバランスの悪さがとにかく気にかかるところである。文章はそれほど下手というわけではないのだが、とにかく急に小説から論文テイストになるのは困ったものだ。
 『地球防衛軍』の原作を香山滋がチェックした際、「もっとロマンを…」と批評されたというが、それもむべなるかな。

 とはいえその点に目をつぶれば、決して嫌いなテイストではない。「翡翠荘綺談」「二十世紀の怪談」「勝部良平のメモ」「ヴァイラス」「佐門谷」あたりは上でも書いたような欠点を存分に含みつつも(苦笑)、設定や導入、アイディアなどは捨てたものではない。
 特にアンソロジーで比較的多く採られている「佐門谷」は、古典的な怪談話を一刀両断するかのような話で個人的にはベスト。ただ、解説を読むと乱歩の当時の評価はけっこう低かったようだが(苦笑)。あとは短いながらもSFミステリちっくな「ヴァイラス」も悪くない。
 ただ、「宝石」でコンクールに受賞したSF作品「鉛の小函」はタイトルからして結末の予想がついてしまい、いま読むと劣化が厳しい。序盤と中盤の雰囲気のちぐはぐさ、終盤の説明がくどいのもマイナス点で、当時だからこそ、その発想が評価された作品というべきだろう。

 ともあれ丘美丈二郎というマイナー作家の全貌を掴むのにこれ以上の本はないし、しかも資料価値だけでなく全体的にはそこそこ楽しく読める一冊である。続く『丘美丈二郎探偵小説選II』にも期待したい。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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