- Date: Sat 19 08 2017
- Category: 国内作家 笹沢左保
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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笹沢左保『招かれざる客』(光文社文庫)
若いときから海外ミステリ中心に読んできた管理人なので、国内作家は一部の作家をのぞくとあまり縁がなかったのだが、ここ数年で1960~1980年あたりに活躍した作家を意識的に読んでいる。もとから読みたい作家はごろごろいたので、そのうちにという気持ちはあったのだが、やはり『本格ミステリ・フラッシュバック』はいいきっかけになっている。
で、本日はそんな作家のなかからもう一人、開拓してみた。笹沢左保である。
笹沢左保といえば「木枯らし紋次郎」の作者というのがもっとも通りがいいだろうが、もともとは乱歩賞を契機にブレイクした作家であり(受賞はできなかったが)、本格からサスペンスまで幅広い作品を残している。
とはいえ時代物やサスペンスのイメージが強いこと、多作家であることなどから、ついついこれまで敬遠してきたのだが、実はミステリに関してはいろいろなチャレンジをしているのはマニアには知られているところ。そろそろ自分の中で読みごろの感じも熟してきたので手に取った次第である。
ということで本日の読了本は笹沢左保の『招かれざる客』。まずはストーリー。
商産省の所有する土地の利用法をめぐり、組合と省側が激しく対立していた。ところが組合の闘争計画が省側に筒抜けになっており、組合の幹部は国家公務員法に抵触したことで全員が処分を受けてしまう。
組合敗北の原因は内部にスパイがいたことだった。組合はまもなく組合員・鶴飼をスパイと特定し、その背後関係を明らかにしようとしたのもつかの間、鶴飼は商産省の階段で殺害されてしまう。さらにはその組合員の愛人であり、スパイ活動に手を貸していた女性・細川も命を狙われるが、彼女と同居していた無関係の女性が誤認されて殺されるという事件まで起こる。
警察はスパイを働いた男に激しい恨みを抱く組合員・亀田を容疑者とにらんだが、その亀田は事故で死亡し、事件は落着したかに見えた……。

組合と役所の対立という社会派的な設定、前半の記事や報告資料というスタイルの記述のため、正直、最初はなかなか乗れなかった。もちろん、これはこれで作者の狙いだとは思うが、むしろ導入としては面白みに欠けてしまい企画倒れの感が強い。
ところが、そこを抜けると話は違ってくる。スタイルも主人公・倉田警部補の一人称となり、ストーリーの様相も社会派から一気に本格寄りにシフト。しかも、その中身が暗号あり、密室あり、アリバイ崩しありとギミックてんこ盛りである。そのひとつひとつの疑問を少しずつコツコツと明らかにしていく様はクロフツを彷彿とさせる。
しかし、本書が素晴らしい本当の理由は、そういったトリックを踏まえて明らかになる事件の様相だろう。
確かに密室やアリバイなどのトリックのひとつひとつも悪くないのだけれど(とはいえ時代ゆえのトリックの古さはあるけれど)、事件の様相が明らかになることで、本作のテーマがくっきりと浮かび上がり、静かな感動を与えてくれるのだ。
惜しむらくは先に書いたように、序盤の記述スタイル。また、主人公の倉田警部補が本当にたった一人で解決までもっていくため、物語としてはやや面白みに欠けるところだろう。倉田警部補自身のドラマも多少は描かれるのだが、ここも少々とってつけたような感じで物足りない。これが処女長編だけに、ストーリー作りはまだ成長途上だったのかもしれない。
プロットは文句ないけれど、魅力的なストーリーに消化するところでもたついた印象である。
ともあれトータルでは十分満足できるレベル。このほかにも意欲的な作品がまだまだ残っているので、当分は楽しめそうである。
で、本日はそんな作家のなかからもう一人、開拓してみた。笹沢左保である。
笹沢左保といえば「木枯らし紋次郎」の作者というのがもっとも通りがいいだろうが、もともとは乱歩賞を契機にブレイクした作家であり(受賞はできなかったが)、本格からサスペンスまで幅広い作品を残している。
とはいえ時代物やサスペンスのイメージが強いこと、多作家であることなどから、ついついこれまで敬遠してきたのだが、実はミステリに関してはいろいろなチャレンジをしているのはマニアには知られているところ。そろそろ自分の中で読みごろの感じも熟してきたので手に取った次第である。
ということで本日の読了本は笹沢左保の『招かれざる客』。まずはストーリー。
商産省の所有する土地の利用法をめぐり、組合と省側が激しく対立していた。ところが組合の闘争計画が省側に筒抜けになっており、組合の幹部は国家公務員法に抵触したことで全員が処分を受けてしまう。
組合敗北の原因は内部にスパイがいたことだった。組合はまもなく組合員・鶴飼をスパイと特定し、その背後関係を明らかにしようとしたのもつかの間、鶴飼は商産省の階段で殺害されてしまう。さらにはその組合員の愛人であり、スパイ活動に手を貸していた女性・細川も命を狙われるが、彼女と同居していた無関係の女性が誤認されて殺されるという事件まで起こる。
警察はスパイを働いた男に激しい恨みを抱く組合員・亀田を容疑者とにらんだが、その亀田は事故で死亡し、事件は落着したかに見えた……。

組合と役所の対立という社会派的な設定、前半の記事や報告資料というスタイルの記述のため、正直、最初はなかなか乗れなかった。もちろん、これはこれで作者の狙いだとは思うが、むしろ導入としては面白みに欠けてしまい企画倒れの感が強い。
ところが、そこを抜けると話は違ってくる。スタイルも主人公・倉田警部補の一人称となり、ストーリーの様相も社会派から一気に本格寄りにシフト。しかも、その中身が暗号あり、密室あり、アリバイ崩しありとギミックてんこ盛りである。そのひとつひとつの疑問を少しずつコツコツと明らかにしていく様はクロフツを彷彿とさせる。
しかし、本書が素晴らしい本当の理由は、そういったトリックを踏まえて明らかになる事件の様相だろう。
確かに密室やアリバイなどのトリックのひとつひとつも悪くないのだけれど(とはいえ時代ゆえのトリックの古さはあるけれど)、事件の様相が明らかになることで、本作のテーマがくっきりと浮かび上がり、静かな感動を与えてくれるのだ。
惜しむらくは先に書いたように、序盤の記述スタイル。また、主人公の倉田警部補が本当にたった一人で解決までもっていくため、物語としてはやや面白みに欠けるところだろう。倉田警部補自身のドラマも多少は描かれるのだが、ここも少々とってつけたような感じで物足りない。これが処女長編だけに、ストーリー作りはまだ成長途上だったのかもしれない。
プロットは文句ないけれど、魅力的なストーリーに消化するところでもたついた印象である。
ともあれトータルでは十分満足できるレベル。このほかにも意欲的な作品がまだまだ残っているので、当分は楽しめそうである。
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おお、笹沢左保も読んでいるのですね、さすがです。
『空白の起点』も持っていますので、近いうちにぜひ読んでみたいです。