- Date: Sat 02 09 2017
- Category: 国内作家 甲賀三郎
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
- Response: Comment 2 Trackback 0
甲賀三郎『蟇屋敷の殺人』(河出文庫)
この一、二年で森下雨村や大下宇陀児、小栗虫太郎といった古い探偵小説作家の作品をぼちぼちとと復刊している河出文庫だが、いつの間にやら〈KAWADE ノスタルジック 探偵・怪奇・幻想シリーズ〉というシリーズ名がつけられているではないか。
昨年、森下雨村が出た頃にはまだなかったと思うのだが、こういうシリーズ名をつけたということは、これまでの作品がそこそこ売れて、ビジネスとして成り立ってきたとみてよいのだろうか。それとも単なるテコ入れ?
今月は小酒井不木の『疑問の黒枠』も出るし、まあ、シリーズ名がついたからにはすぐに中止ということもないだろうが、何とかがんばって続けてほしいものである。論創ミステリ叢書は短編集が多いので、河出文庫ではぜひ長編中心で。
ということで本日の読了本は、〈KAWADE ノスタルジック 探偵・怪奇・幻想シリーズ〉から甲賀三郎の『蟇屋敷の殺人』。
まずはストーリー。
東京は丸の内の路上で止まっていた高級自動車。不審に思った警官がドアを開け、運転手の男の肩に手をかけたときであった。男の首がずるりと膝元に転げ落ちたのだ。
謎の首切断死体に警察はさっそく捜査を開始し、被害者は熊丸猛(くままるたけし)と判明する。しかし、なんとその熊丸自身が警察署に現れ、被害者の正体は謎に包まれる。しかもなぜか熊丸は自分の行動を明かそうとしない。
ひょんなことからこの事件に興味をもった探偵小説家の村橋信太郎は、知人のつてを頼りに熊丸家を訪れるが、彼もまた命を狙われる羽目に……。

本格こそ探偵小説の主軸であると主張した甲賀三郎だが、その意に反して作品の多くはけっこうな通俗的スリラーであり、本作もまた然り。
首の切断殺人というド派手な幕開けから、蟇だらけの屋敷、とことん怪しげな蟇屋敷の住人たち、のっぺらぼうの怪人、探偵役の主人公も刑事も命を奪われそうになるというスリリングな展開などなど、もうケレンだけで成り立っているといっても過言ではない。
もちろんその真相も半分あきれてしまうレベルなのだけれど、何とか本格っぽく強引にまとめあげる豪腕はさすがであり、リーダビリティもとりあえずむちゃくちゃ高い。
ただ、主要な登場人物の何人かが、主人公に事件に近づくなと言いつつその理由については固く口を閉ざしていたり、警察にも一切を黙秘するあたりは、大きなマイナスである。物語を引っ張ろうとする作者の魂胆がミエミエで、いわゆるHIBK派にも通じるイライラを感じてしまうのはいただけないところだ。
もちろん例によってツッコミどころも満載なので、「面白い面白い」とはいいながらも、戦前の探偵小説に免疫のない人にあまりおすすめする気はない。復刻はありがたいかぎりだが、この面白さは果たして現代のミステリファンにどの程度受け入れられるのだろう?
昨年、森下雨村が出た頃にはまだなかったと思うのだが、こういうシリーズ名をつけたということは、これまでの作品がそこそこ売れて、ビジネスとして成り立ってきたとみてよいのだろうか。それとも単なるテコ入れ?
今月は小酒井不木の『疑問の黒枠』も出るし、まあ、シリーズ名がついたからにはすぐに中止ということもないだろうが、何とかがんばって続けてほしいものである。論創ミステリ叢書は短編集が多いので、河出文庫ではぜひ長編中心で。
ということで本日の読了本は、〈KAWADE ノスタルジック 探偵・怪奇・幻想シリーズ〉から甲賀三郎の『蟇屋敷の殺人』。
まずはストーリー。
東京は丸の内の路上で止まっていた高級自動車。不審に思った警官がドアを開け、運転手の男の肩に手をかけたときであった。男の首がずるりと膝元に転げ落ちたのだ。
謎の首切断死体に警察はさっそく捜査を開始し、被害者は熊丸猛(くままるたけし)と判明する。しかし、なんとその熊丸自身が警察署に現れ、被害者の正体は謎に包まれる。しかもなぜか熊丸は自分の行動を明かそうとしない。
ひょんなことからこの事件に興味をもった探偵小説家の村橋信太郎は、知人のつてを頼りに熊丸家を訪れるが、彼もまた命を狙われる羽目に……。

本格こそ探偵小説の主軸であると主張した甲賀三郎だが、その意に反して作品の多くはけっこうな通俗的スリラーであり、本作もまた然り。
首の切断殺人というド派手な幕開けから、蟇だらけの屋敷、とことん怪しげな蟇屋敷の住人たち、のっぺらぼうの怪人、探偵役の主人公も刑事も命を奪われそうになるというスリリングな展開などなど、もうケレンだけで成り立っているといっても過言ではない。
もちろんその真相も半分あきれてしまうレベルなのだけれど、何とか本格っぽく強引にまとめあげる豪腕はさすがであり、リーダビリティもとりあえずむちゃくちゃ高い。
ただ、主要な登場人物の何人かが、主人公に事件に近づくなと言いつつその理由については固く口を閉ざしていたり、警察にも一切を黙秘するあたりは、大きなマイナスである。物語を引っ張ろうとする作者の魂胆がミエミエで、いわゆるHIBK派にも通じるイライラを感じてしまうのはいただけないところだ。
もちろん例によってツッコミどころも満載なので、「面白い面白い」とはいいながらも、戦前の探偵小説に免疫のない人にあまりおすすめする気はない。復刻はありがたいかぎりだが、この面白さは果たして現代のミステリファンにどの程度受け入れられるのだろう?
- 関連記事
-
-
甲賀三郎『強盗殺人実話 戦前の凶悪犯罪事件簿』(河出書房新社) 2021/10/27
-
甲賀三郎『真紅の鱗形』(湘南探偵倶楽部) 2020/06/06
-
甲賀三郎『蟇屋敷の殺人』(河出文庫) 2017/09/02
-
甲賀三郎『浮ぶ魔島 ― 甲賀三郎 少年探偵遊戯 ―』(盛林堂ミステリアス文庫) 2016/04/03
-
甲賀三郎『印度の奇術師』(盛林堂ミステリアス文庫) 2015/11/01
-
>このシリーズで久生十蘭のレア長編「妖術」出してもらえないかなあ。
『妖術』は私もぜひ文庫で出してほしい一冊ですね。国書の全集が持ち歩きにくいという以前に、私、三一版の不完全全集しか持っていないので(苦笑)。
>管理人様もよく書いておられるけれど、国書や作品社のようなバカデカい本は家でも読むの大変で。
まあ、版元もいろいろと考えるところがあるんでしょうが、通勤電車で一時間ほど立ちながら読む人間の気持ちになってほしいものですね。。
>鮎川の巻からシレっと税込価格4000円超えに値上げしてますね
4000円超えは論創ミステリ叢書ではなくて、論創海外ミステリのオベリストのほうじゃなかったでしょうか。あちらはさすがに今回限りの値付けだと思うのですが。