- Date: Mon 18 09 2017
- Category: 国内作家 新羽精之
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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新羽精之『新羽精之探偵小説選II』(論創ミステリ叢書)
論創ミステリ叢書から『新羽精之探偵小説選II』を読む。
デビュー時から主な活躍媒体としていた推理小説雑誌『宝石』が廃刊になり、新羽精之はそれ以後、『推理ストーリー』や『推理界』、『推理文学』、地元の新聞など、さまざまな媒体に作品を発表することになる。本書はそんな新羽精之の後期作品を収めた作品集である。

「河豚の恋」
「幻の蝶」
「ボンベイ土産」
「ロマンス航路」
「華やかなる開館」
「動物四重奏(アニマル・クァルテット)」
「時代おくれの町」
「平等の条件」
「自由の敵」
「ニコライ伯父さん」
「日本西教記」
「偽眼(にせめ)のマドンナ」
「卑弥呼の裔」
「黄金の鵜」
「天童奇蹟」
「薔薇色の賭」
「幻の怪人二十面相」
収録作は以上。基本は奇妙な味といってもよいが、その内容は意外なほどバラエティに富んでなかなか読ませるなぁというのが前巻『新羽精之探偵小説選I』での感想だったが、テイストはそのままに後期作品はより上手くなっているというのが本書の第一印象。似たようなアイディアを使い回す癖は本書でも見られるが、それさえ目を瞑れば全体的には十分楽しめる。これまでまとまった作品集がなかったのが不思議なほどである。
「河豚の恋」は本格仕立て。フグの中毒を利用するネタ、板前の見習いという探偵役、ほのかなロマンスなど、バランスよくまとめた佳品。ただ、長崎が舞台なのに主人公がべらんめえ口調なのが気になった。どこかに東京出身とかいう描写があったかな?
「幻の蝶」も悪くない。蝶の修正を利用したアイディア、無数の蝶が舞う描写、犯人と被害者の対決など、盛りだくさんでなかなかの力作である。しかし、新羽精之は本当によくこれだけ動物ネタを考えつくなぁ。
インドに出かけた主人公が麻薬の運び屋を頼まれる「ボンベイ土産」。怪しげなインド人との出会いの場面が魅力的で一気に引き込まれるが、そこから意外な展開をみせつつ、最後にはどんでん返し。鮮やか、というほどのオチではないが、ちょっと捻った倒叙ものとして楽しめる。
豪華客船に出没する怪盗の正体は? 「ロマンス航路」は誰が怪盗なのかという興味でひっぱりつつ、ロマンスも盛大に盛り込み、ラストのオチで「あ、道理で」となる。ちょっと星新一の作品を思い出した。
「華やかなる開館」は短いながらもひねりの効いた倒叙もの。内容は悪くないのだけれど、プロットが「ボンベイ土産」と似ていて、著者の悪い癖が出た一作。
「動物四重奏(アニマル・クァルテット)」は動物ネタのショートショート四連発。軽い小咄だが、ここでもネタの焼き直しがあるのがマイナス点。
古い田舎町の因習や風習の怖さをテーマにした「時代おくれの町」は奇妙な味の秀作。短編だとこの種の怖さを表現しきれないリスクもあるのだが、著者は意外なほど鮮やかにまとめている。
「平等の条件」は小さいころから主従関係にあった二人の男の物語。ラストの逆転劇で爽快感を生むはずが、それほどの切れ味はない。
「自由の敵」は学生運動真っ盛りの大学に忍び込んだ泥棒の物語。他愛ないショートショートといったら身も蓋もないが、まあ、そのレベル。
「ニコライ伯父さん」は奇妙な味というよりは怪奇小説寄りの作品。ロシアを舞台にしており、そんな長い作品でもないのによく下調べしているなあと感心して読んだが、評論家の中島河太郎によると「こういう趣向は設定が変わっているだけで、氏自身にとっても目新しいとはいえない」と、なかなか手厳しい(苦笑)。
「日本西教記」は本書の目玉、本邦初のキリシタン推理小説である。フランシスコ・ザビエルの布教の様子が、自らの手記、ザビエルに同行したメンデス・ピントの手記、同じくアントアン・ローペの手記で構成され、ザビエルが起こした奇跡の数々の秘密を明かすという物語である。趣向は非常に面白いが、解説でも書かれているように、ピントの手記がザビエルの内容とかぶりすぎでいただけない。
「偽眼(にせめ)のマドンナ」はどんでん返しを効かせた倒叙もの。ショートショート程度の短さなのでワン・アイディアに頼りすぎなのは仕方ないにしても、類似パターンが多いのがやはり気になる。
「卑弥呼の裔」は歴史ミステリの力作。数少ない本格仕立ての一作で、初期の「炎の犬」あたりと似てはいるが、題材が面白い。
「黄金の鵜」は犯罪捜査に協力して売れっ子になった占い師の物語。この題名ではオチを読まれるやすい気がするが、それはともかく小品ながら内容的にはけっこう好み。
「天童奇蹟」はキリシタンもので「日本西教記」と対をなすような一編。テーマがテーマなだけになかなか印象深いものがある。
厳格な市長に一泡吹かせるといった内容の「薔薇色の賭」はユーモラスな味わいが売り。まあ、ショートコントといったらそれまでだが(苦笑)。
トリを飾るのは題名からして唆る「幻の怪人二十面相」。今読むとさすがに手垢のついたネタではあるが、これはなかなか巧く処理している。
さて、これでようやく『新羽精之探偵小説選I』&『新羽精之探偵小説選II』を読み終えたのだが、いつもの論創ミステリと違って、実はこれで新羽精之全集というわけではない。まあ、長編は含めなくてもよいのだが、『幻影城』に連載された「十二支によるバラード」が収録されていないのである。といってもこの分量ではさすがに厳しかったのだろうが、これはもしかして『新羽精之探偵小説選III』を期待してよいということなのだろうか。期待しています>論創社さん
デビュー時から主な活躍媒体としていた推理小説雑誌『宝石』が廃刊になり、新羽精之はそれ以後、『推理ストーリー』や『推理界』、『推理文学』、地元の新聞など、さまざまな媒体に作品を発表することになる。本書はそんな新羽精之の後期作品を収めた作品集である。

「河豚の恋」
「幻の蝶」
「ボンベイ土産」
「ロマンス航路」
「華やかなる開館」
「動物四重奏(アニマル・クァルテット)」
「時代おくれの町」
「平等の条件」
「自由の敵」
「ニコライ伯父さん」
「日本西教記」
「偽眼(にせめ)のマドンナ」
「卑弥呼の裔」
「黄金の鵜」
「天童奇蹟」
「薔薇色の賭」
「幻の怪人二十面相」
収録作は以上。基本は奇妙な味といってもよいが、その内容は意外なほどバラエティに富んでなかなか読ませるなぁというのが前巻『新羽精之探偵小説選I』での感想だったが、テイストはそのままに後期作品はより上手くなっているというのが本書の第一印象。似たようなアイディアを使い回す癖は本書でも見られるが、それさえ目を瞑れば全体的には十分楽しめる。これまでまとまった作品集がなかったのが不思議なほどである。
「河豚の恋」は本格仕立て。フグの中毒を利用するネタ、板前の見習いという探偵役、ほのかなロマンスなど、バランスよくまとめた佳品。ただ、長崎が舞台なのに主人公がべらんめえ口調なのが気になった。どこかに東京出身とかいう描写があったかな?
「幻の蝶」も悪くない。蝶の修正を利用したアイディア、無数の蝶が舞う描写、犯人と被害者の対決など、盛りだくさんでなかなかの力作である。しかし、新羽精之は本当によくこれだけ動物ネタを考えつくなぁ。
インドに出かけた主人公が麻薬の運び屋を頼まれる「ボンベイ土産」。怪しげなインド人との出会いの場面が魅力的で一気に引き込まれるが、そこから意外な展開をみせつつ、最後にはどんでん返し。鮮やか、というほどのオチではないが、ちょっと捻った倒叙ものとして楽しめる。
豪華客船に出没する怪盗の正体は? 「ロマンス航路」は誰が怪盗なのかという興味でひっぱりつつ、ロマンスも盛大に盛り込み、ラストのオチで「あ、道理で」となる。ちょっと星新一の作品を思い出した。
「華やかなる開館」は短いながらもひねりの効いた倒叙もの。内容は悪くないのだけれど、プロットが「ボンベイ土産」と似ていて、著者の悪い癖が出た一作。
「動物四重奏(アニマル・クァルテット)」は動物ネタのショートショート四連発。軽い小咄だが、ここでもネタの焼き直しがあるのがマイナス点。
古い田舎町の因習や風習の怖さをテーマにした「時代おくれの町」は奇妙な味の秀作。短編だとこの種の怖さを表現しきれないリスクもあるのだが、著者は意外なほど鮮やかにまとめている。
「平等の条件」は小さいころから主従関係にあった二人の男の物語。ラストの逆転劇で爽快感を生むはずが、それほどの切れ味はない。
「自由の敵」は学生運動真っ盛りの大学に忍び込んだ泥棒の物語。他愛ないショートショートといったら身も蓋もないが、まあ、そのレベル。
「ニコライ伯父さん」は奇妙な味というよりは怪奇小説寄りの作品。ロシアを舞台にしており、そんな長い作品でもないのによく下調べしているなあと感心して読んだが、評論家の中島河太郎によると「こういう趣向は設定が変わっているだけで、氏自身にとっても目新しいとはいえない」と、なかなか手厳しい(苦笑)。
「日本西教記」は本書の目玉、本邦初のキリシタン推理小説である。フランシスコ・ザビエルの布教の様子が、自らの手記、ザビエルに同行したメンデス・ピントの手記、同じくアントアン・ローペの手記で構成され、ザビエルが起こした奇跡の数々の秘密を明かすという物語である。趣向は非常に面白いが、解説でも書かれているように、ピントの手記がザビエルの内容とかぶりすぎでいただけない。
「偽眼(にせめ)のマドンナ」はどんでん返しを効かせた倒叙もの。ショートショート程度の短さなのでワン・アイディアに頼りすぎなのは仕方ないにしても、類似パターンが多いのがやはり気になる。
「卑弥呼の裔」は歴史ミステリの力作。数少ない本格仕立ての一作で、初期の「炎の犬」あたりと似てはいるが、題材が面白い。
「黄金の鵜」は犯罪捜査に協力して売れっ子になった占い師の物語。この題名ではオチを読まれるやすい気がするが、それはともかく小品ながら内容的にはけっこう好み。
「天童奇蹟」はキリシタンもので「日本西教記」と対をなすような一編。テーマがテーマなだけになかなか印象深いものがある。
厳格な市長に一泡吹かせるといった内容の「薔薇色の賭」はユーモラスな味わいが売り。まあ、ショートコントといったらそれまでだが(苦笑)。
トリを飾るのは題名からして唆る「幻の怪人二十面相」。今読むとさすがに手垢のついたネタではあるが、これはなかなか巧く処理している。
さて、これでようやく『新羽精之探偵小説選I』&『新羽精之探偵小説選II』を読み終えたのだが、いつもの論創ミステリと違って、実はこれで新羽精之全集というわけではない。まあ、長編は含めなくてもよいのだが、『幻影城』に連載された「十二支によるバラード」が収録されていないのである。といってもこの分量ではさすがに厳しかったのだろうが、これはもしかして『新羽精之探偵小説選III』を期待してよいということなのだろうか。期待しています>論創社さん
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