- Date: Thu 28 09 2017
- Category: 国内作家 江戸川乱歩
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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江戸川乱歩『明智小五郎事件簿X「少年探偵団」「黒蜥蜴」』(集英社文庫)
名探偵・明智小五郎の活躍を物語発生順に紹介するシリーズの十巻目『明智小五郎事件簿X「少年探偵団」「黒蜥蜴」』を読む。
九巻目は「大金塊」と「怪人二十面相」という児童向け作品のカップリングだったが、本書では児童向けと大人向けがそれぞれ一作ずつという構成で、よく考えるとすごい組み合わせではある。

さて、まずは『少年探偵団』。
首都東京を最近騒がせている謎の怪人“黒い魔物”。影のように神出鬼没の“黒い魔物”は、次々と人を驚かせる事件を起こしていたが、その本当の狙いは富豪・篠崎家が所有する“のろいの宝石”と娘の緑ちゃんにあった。
篠崎家はその手立てとして名探偵・明智小五郎に依頼をするが、あいにく明智は不在。代わりに助手の小林少年が妙案を思いつくのだが……。
実に何十年ぶりかの再読。ストーリーはほとんど覚えていなかったが、特定シーンだけ(アジトの爆破シーンとか、小林少年の女装とか)は鮮明に覚えているのが不思議。
さて、本作は少年探偵団ものとしては二作目にあたるが、この時点でほぼほぼシリーズのパターンは確立されている印象である。ただ、後の作品に比べるとやや弱さは目立つ。
“黒い魔物”の正体が明かされるのはストーリー中盤とけっこう早い時点だし、それもおそらくはキャラ設定が後の作品のものほど強くないため、むしろ早めに二十面相を登場させたかったのではないかと想像できる。
ただ、その結果として二十面相が登場して明智と対決するシーンが前半の大ヤマとなっており、バランスとしては悪くない。
そのほかの見どころとしては、やはり少年探偵団の活躍であり、小林少年の女装やBDバッヂの説明などはなかなか楽しいし、やっぱり何だかんだで面白い作品である。
お次は「黒蜥蜴」。こちらも読むのは二十年ぶりぐらいになると思うが、これで確か四回目の再読になる。
クリスマス・イヴの夜。あるナイトクラブで盛大に催されている大夜会で、一際目立つ妖艶な黒衣の美女。その正体こそ、宝石のためなら人殺しをも厭わない女盗賊“黒蜥蜴”であった。
“黒蜥蜴”の次なる標的は、大阪の宝石商・岩瀬家のひとり娘・早苗。誘拐予告状を受け取った岩瀬老人はさっそく明智小五郎に警護を依頼したが、岩瀬家が滞在するホテルには、すでに“黒蜥蜴”が緑川夫人として彼らの前に現れていた……。
このころの乱歩はスランプに陥っていた時期であり、パターン化された通俗ものばかり書いていたが、本作もストーリー的にはそれほど見るべきものはない(鉄板ではあるけれど)。それでも乱歩の好きな作品アンケートなどでけっこう取り上げられるのは、やはり“黒蜥蜴”というキャラクターの設定のおかげだろう。
妖艶さという女盗賊ならではの武器はもちろんだが、頭脳や度胸も二十面相顔負け。おまけに目的のためには手段を選ばないという冷酷な部分があり、そのくせ明智に気持ちを寄せるいじらしい面もあるなど、これまでの犯人像にはない不思議な魅力がある。
犯罪者としてのプライド、女としての魅力や弱さがカオスになり、この“黒蜥蜴”というキャラクターが成立しているわけで、そういう意味で本作はこれまでの明智対犯人という図式ではなく、ぜひ“黒蜥蜴”のロマンスものとして読むのがおすすめではなかろうか。
昭和初期の雰囲気も濃厚で(大阪が舞台というのは珍しい)、やはり“黒蜥蜴”にはロマンあふれる時代がよく似合う。
九巻目は「大金塊」と「怪人二十面相」という児童向け作品のカップリングだったが、本書では児童向けと大人向けがそれぞれ一作ずつという構成で、よく考えるとすごい組み合わせではある。

さて、まずは『少年探偵団』。
首都東京を最近騒がせている謎の怪人“黒い魔物”。影のように神出鬼没の“黒い魔物”は、次々と人を驚かせる事件を起こしていたが、その本当の狙いは富豪・篠崎家が所有する“のろいの宝石”と娘の緑ちゃんにあった。
篠崎家はその手立てとして名探偵・明智小五郎に依頼をするが、あいにく明智は不在。代わりに助手の小林少年が妙案を思いつくのだが……。
実に何十年ぶりかの再読。ストーリーはほとんど覚えていなかったが、特定シーンだけ(アジトの爆破シーンとか、小林少年の女装とか)は鮮明に覚えているのが不思議。
さて、本作は少年探偵団ものとしては二作目にあたるが、この時点でほぼほぼシリーズのパターンは確立されている印象である。ただ、後の作品に比べるとやや弱さは目立つ。
“黒い魔物”の正体が明かされるのはストーリー中盤とけっこう早い時点だし、それもおそらくはキャラ設定が後の作品のものほど強くないため、むしろ早めに二十面相を登場させたかったのではないかと想像できる。
ただ、その結果として二十面相が登場して明智と対決するシーンが前半の大ヤマとなっており、バランスとしては悪くない。
そのほかの見どころとしては、やはり少年探偵団の活躍であり、小林少年の女装やBDバッヂの説明などはなかなか楽しいし、やっぱり何だかんだで面白い作品である。
お次は「黒蜥蜴」。こちらも読むのは二十年ぶりぐらいになると思うが、これで確か四回目の再読になる。
クリスマス・イヴの夜。あるナイトクラブで盛大に催されている大夜会で、一際目立つ妖艶な黒衣の美女。その正体こそ、宝石のためなら人殺しをも厭わない女盗賊“黒蜥蜴”であった。
“黒蜥蜴”の次なる標的は、大阪の宝石商・岩瀬家のひとり娘・早苗。誘拐予告状を受け取った岩瀬老人はさっそく明智小五郎に警護を依頼したが、岩瀬家が滞在するホテルには、すでに“黒蜥蜴”が緑川夫人として彼らの前に現れていた……。
このころの乱歩はスランプに陥っていた時期であり、パターン化された通俗ものばかり書いていたが、本作もストーリー的にはそれほど見るべきものはない(鉄板ではあるけれど)。それでも乱歩の好きな作品アンケートなどでけっこう取り上げられるのは、やはり“黒蜥蜴”というキャラクターの設定のおかげだろう。
妖艶さという女盗賊ならではの武器はもちろんだが、頭脳や度胸も二十面相顔負け。おまけに目的のためには手段を選ばないという冷酷な部分があり、そのくせ明智に気持ちを寄せるいじらしい面もあるなど、これまでの犯人像にはない不思議な魅力がある。
犯罪者としてのプライド、女としての魅力や弱さがカオスになり、この“黒蜥蜴”というキャラクターが成立しているわけで、そういう意味で本作はこれまでの明智対犯人という図式ではなく、ぜひ“黒蜥蜴”のロマンスものとして読むのがおすすめではなかろうか。
昭和初期の雰囲気も濃厚で(大阪が舞台というのは珍しい)、やはり“黒蜥蜴”にはロマンあふれる時代がよく似合う。
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まあ、年齢や性別で受け取り方もさまざまでしょう(苦笑)。
この場面は小説の導入部で、黒蜥蜴の妖しい美しさ、同時に大勢のならず者の前で素っ裸になるという黒蜥蜴のきっぷの良さ、それこそ男っぷりの良さを印象付けるシーンです。
腕に彫られた”黒トカゲ”が肌の上で艶かしく蠢めくのが印象的なのですが、ふた昔前ぐらいの映画とかではよく鉄火場や温泉旅館で柔肌をさらす女勝負師のシーンとかがあるのですが、あれに近いイメージといえばわかりやすいでしょうか。
ちなみにストリップのあとは、男たちに神輿のように担がれてバスルームに運ばれるのですが、むしろこっちのほうが笑えました(笑)