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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

笹沢左保『人喰い』(中公文庫)

 笹沢左保の『人喰い』を読む。著者の長編第四作にして第14回日本推理作家協会賞受賞作品。

 こんな話。
 本多銃砲火薬店に勤める花城由記子が妹・佐紀子に遺書を残して失踪した。由記子は社長の息子、本田昭一と付き合っていたが、本田家の反対にあい、しかも会社でも執拗な嫌がらせを受けていたのだ。そんな二人が選択したのは心中という手段だったが、発見されたのは昭一の遺体だけだった。
 由記子の生死がはっきりしないまま、本多銃砲火薬店での爆破事件、そして殺人事件が発生するにおよび、ついに由記子は殺人犯として指名手配を受ける。佐紀子は姉の無実を信じ、恋人とともに調査を始めるが……。

 人喰い

 笹沢左保の初期長編は力作ぞろい、特に本格魂にあふれるものが多いということで、そのあたりを中心に読み進めているのだが、本作『人喰い』もまたその期待を裏切らない傑作である。

 これまで読んだのは『招かれざる客』、『霧に溶ける』だが、これらは警察の捜査を中心に物語が進んでいたのに対し、本作は容疑者の妹・佐紀子が調査に乗り出す素人探偵もの。その分だけサスペンス要素が強めなのが特徴で、姉の由記子は果たして被害者なのか、それとも犯人なのか、あるいは別の真相があるのか、その興味で引っ張りながら物語を進めていくのがよろしい。
 トリックの盛り込み方は先の二作ほど賑やかではないけれども、物語の盛り上げ方などを加味すると、個人的には本作の方が好みである。

 トリックの盛り込み方が云々と書いたように、ひとつひとつのネタはやや厳しい。
 ただ、これは先の二作も似たようなもので、笹沢作品では、そういう物理トリックよりも意外な事件の真相が見どころである。叙述トリックというほどのものではないが、事件の様相をガラッと変えてみせる技術は相変わらず冴えている。

 まあ、登場人物が限られているので、今のミステリファンであればヤマ勘でも犯人は当てることも可能だが、なんというか、こういう書き方をするとちょっと語弊はあるけれども、いわゆる火曜サスペンス劇場とか、そういうサスペンスドラマのお手本のような作品といってもいいだろう。

 タイトルの『人喰い』の意味については、終盤で犯人の言葉によって明らかになるのだが、この犯人の性格付けと合わせてなかなかに興味深く、微妙にイヤーな読後感を残すところも好み。この暗さもまた笹沢作品の魅力であろう。
 ともあれ笹沢作品の良さはだいぶ実感できてきたので、今後ももう少し読み進めてみたい。

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Comments
 
呉エイジ さん

まいど〜!(笑)
 マケプレ
ここのページのリンクからマケプレに飛びまして
注文した中公文庫の「人喰い」が、
明後日くらいに届くそうです(笑)
 
ksbcさん

>さらに時代は古いようですが、今と違ってややこしい労働争議(完全にパワハラ)など、当時ならではの雰囲気がそこここに。

そうですね。つい最近まで活躍していたイメージはありますが、作家としての活動は1960年からですから、昭和の香りは濃いですね。それがまたいい味です。
ともあれ楽しんでいただけたたようで安心しました。
 
双葉文庫の日本推理作家協会賞受賞作全集をゲットして読みました。
確かに藤雪夫、桂子の『獅子座』とかの印象に近いものありました。
さらに時代は古いようですが、今と違ってややこしい労働争議(完全にパワハラ)など、当時ならではの雰囲気がそこここに。
理論的にはありですが、現実にはどうかな…と感じながらも楽しんで読みました。
ありがとうございました。
 
ksbcさん

どうぞお楽しみください。気に入ってもらえることを祈りつつ。
 
そうですか、藤親子的な印象ですか。
読んでみます。
アドバイス、ありがとうございます。
 
KSBCさん

以前に『獅子座』や『黒水仙』で盛りあがったことがありましたけど、けっこうアレに近い読後感だったような気がするので、おそらく『人喰い』は気に入っていただけるのではないかと。
記憶が薄れているのであまり確かじゃないですが(苦笑)。
 
こんばんは。
笹沢左保、読んだことありませんでした。
イヤな感ありとのことですので、「人喰い」読んでみます。
 
M・ケイゾーさん

>「遥かなり~」の伊勢波(だったかな)シリーズとか苦しいところも多々ありますが好きです。

それもチェックですね。
しかし、みなさん、けっこう昭和のミステリも読んでますね。正直、以前は多作家で時代物もたくさん書いている作家というのは、基本的にあまり唆られなかったのですが(多岐川恭もそう)、やはり読んでみないと実力はわからないものですね。まあ当たり前の話ですけれど(苦笑)。
 
私も結構読みましたよ。中毒してました。改題が多いので注意です。

 「遥かなり~」の伊勢波(だったかな)シリーズとか苦しいところも多々ありますが好きです。

 幻影城の名言集(だったかな)にも取り上げられてました。
 
根岸鴨さん

オススメありがとうございます。笹沢左保はけっこう定期的にあちらこちらの版元から再刊・復刊されているせいで、比較的簡単に集められるのがいいですね。
おすすめの三作では『空白の起点』しか持っていませんが、他の二冊もネットでは1円で買えるようなので、ぜひそのうち読んでみたいと思います。
 
こんにちは。笹沢左保は有栖川有栖の影響で結構読みました。
初期の作品ではありませんが、アリバイ崩しものとして「暗鬼の旅路」「空白の起点」、かなり変わった設定の「求婚の密室」あたりがオススメです。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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