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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


笹沢左保『どんでん返し』(祥伝社ノン・ポシェット)

 笹沢左保の『どんでん返し』を読む。最近読んでいた初期長編から離れて、これは中期に刊行された短編集である。まずは収録作。

「影の訪問者」
「酒乱」
「霧」
「父子(おやこ)の対話」
「演技者」
「皮肉紳士」

 どんでん返し

 どんでん返しがテーマの短編集。しかも全編、二人の登場人物の会話だけで構成されており、なかなか技巧的でアグレッシブな試みである。
 ただ、技巧的ではあるし、どれもきちんとオチを工夫してあるのだけれど、いかんせん会話だけだといろいろ制限が多くなり、どうしても先が予想しやすいのが惜しまれる。それでも何作かはこちらの予想を超えるものもあって、まずまず悪くない短編集である。
 なお、タイトルにまで“どんでん返し”とつけるのは、いくら何でもハードルを上げすぎじゃないかな(苦笑)。

 以下、作品ごとの感想など。

 「影の訪問者」はかつて婚約していた男女の会話。深夜に突然やってきた女の不審な様子から、男が推理を披露して……という物語。会話ミステリー(そんなジャンルがあるかどうかは知らんが)の基本系みたいな作品である。それだけに予想されやすいところはあるのだが、サスペンスも高く、きちんとまとまった佳作。一幕ものの芝居みたいな雰囲気もよい。

 その基本形を捻ってあるのが「酒乱」。五十代の夫婦の会話だが、昔に起こったと思しき事件を二人で回想していくのだが、余韻も含めて本書のピカイチ。

 「霧」は心中を図ろうとする若い夫婦の会話。これは単純で驚きも少なくいまひとつ。

 「父子の対話」は「酒乱」に次ぐ出来の良さ。売れっ子弁護士になった息子とその父の会話だが、御都合主義が一ヶ所あるのはいただけないが、会話だけでこれだけの豊穣なストーリーを展開させる手腕が見事。

 「演技者」は夫の殺人を企む女優とその不倫相手の会話で始まり、後半は女優と捜査にあたる刑事の会話で締める。プロットに無理があり、本作だけ会話も都合三人で成り立たせているため、印象も弱くなってしまった。

 「皮肉紳士」は空港へ向かうタクシーの中で、大学教授に事件の相談をする刑事の話。これは会話ミステリというより安楽椅子もののアレンジ。なので会話ミステリとしての面白さには欠けるのが残念。

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Comments

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M・ケイゾーさん

おお、やはりこの二つは出来がいいようですね。
ちなみに『同行者の』文庫版タイトルは『悪魔の道連れ』のようです。ネットで見ると確かに出来はいまひとつみたいなのですが、ううむ、ちょっと気になります。

Posted at 19:03 on 11 05, 2017  by sugata

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  「酒乱」と「父子の対話」は年鑑にも収録されましたね。
 「同行者」は会話で進行する長編でしたが、さすがに厳しかった記憶があります。(文庫化されたとき改題されていましたが忘れてしまいました。)

Posted at 13:17 on 11 05, 2017  by M・ケイゾー

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ポール・ブリッツさん

>この本けっこう好きなんだけど、「好き」だと公言したらバカにされるような気がして今まで隠してました(笑)

え、そうなんですか? やっぱりタイトルのせい? いや、別にいいんじゃないですか。ひと昔前はミステリを読んでるだけでバカにされ、さらにその昔は小説を読ことすらバカにされた時代もあったようですから(苦笑)、たかだかミステリの内側であれが偉いこれが偉いというのもくだらない話です。

>わたしは「父子の対話」がいちばん好きですね。

私はしみじみ感で「酒乱」をとりましたが、「父子の対話」もいいですよね。この二作とその他の作品の差がちょっと大きい感じですね。

Posted at 18:16 on 11 04, 2017  by sugata

Edit

この本けっこう好きなんだけど、「好き」だと公言したらバカにされるような気がして今まで隠してました(笑)

わたしは「父子の対話」がいちばん好きですね。

Posted at 17:36 on 11 04, 2017  by ポール・ブリッツ

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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