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 論創ミステリ叢書から『蘭郁二郎探偵小説選I』を読む。蘭郁二郎は海野十三と並んで、日本のSF黎明期をリードしてきた人というイメージが強いが、SF(そしてジュヴナイル)に手を染めるようになってきたのは太平洋戦争に入る少し前のことで、初期はもっぱら変態趣味(笑)の変格探偵小説を中心に書いていた。
 その初期の探偵小説はちくま文庫の『怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像』にまとめられており、これで探偵小説系の代表作はほぼ読めると思っていたのだが、どうやらSFを中心に書いていた後期にも、それなりの数の探偵小説を書いていたようで、そちらをまとめたのが、この論創ミステリ叢書版ということらしい。
 収録作は以下のとおり。

【月澤俊平の事件簿】
「闇に溶ける男」
「南風荘の客」
「指輪と探偵」
「妙な錠前屋」
「慈雨の殺人」
「発明相談所」
「火星の荒野(あれの)」
「新兵器出現」
「海底探検余聞」
「南海の毒杯」(長編)
「林檎と名探偵」

【少年探偵王】
「温室の怪事件」
「幽霊自動車の事件」
「大宮博士の事件」
「不思議な電話の事件」
「雪の山小屋の事件」
「飾り時計の事件」
「百貨店の怪盗事件」

【林田葩子(はやしだはなこ)作品集】
「花形作家」
「第百一回目」

 蘭郁二郎探偵小説選I

 うひゃあ。蘭郁二郎がSF中心に書いていた頃の探偵小説という触れ込みだったので、どちらかというと拾遺集的なものだと思っていたら、シリーズものがガッツリふたつも入っているし、長編まで丸々一本収録されているとは。やっぱり読んでみないとわからないものだなぁ。
 ともかく予想以上に楽しめた。

 【月澤俊平の事件簿】は大人向けの和製ルパンもの。月澤俊平とは世を忍ぶ仮の姿であり、その正体は義賊・弦巻謙介。初期に書いていた探偵小説とはまったくかけ離れたスマートなストーリーであり、さすがにトリックの古さは否めないものの、オチをキリッと効かせた小気味よい物語ばかりで思った以上に引き込まれる。
 驚いたのは、この月澤俊平というキャラクターや作風が、作品ごとにどんどん変化していくところである。スマートな義賊ものが徐々に防諜小説色が強くなり、その味付けとしてSFテイストも盛り込まれる。戦時下の影響が大きくなっていると解説にあったが、確かにそのとおりだろう。おまけに義賊的な設定すらなくなって、いつのまにか007のような雰囲気すら漂わせるのは笑った。
 戦時ならではの作風転換ではあるのだが、そこにトリック趣味があることを解説では指摘しているものの、ううむ、そこまでのものかどうかは疑問である。ただ、小説のカラーが変わりつつも、探偵小説としては以前面白く読めるのはさすがだ。

 【少年探偵王】は少年探偵・照夫君を主人公にしたシリーズで、こちらは月澤俊平シリーズ以上に本格探偵小説として成立している。ただ、相当にいろんなところからネタを拝借しているようで、このあたりはそういうものとして捉えるしかないだろう。
 むしろ興味深いのはこのシリーズが発表されてきた経緯であり、月澤俊平シリーズもそうだが、蘭郁次郎はとことん時代に翻弄された作家といえるかもしれない(説明すると長くなるので興味ある方は本書解説でどうぞ)。

林田葩子名義で書かれた作品はいわばボーナストラック。どちらも雑誌『探偵文学』に掲載されたものだが、どちらも探偵小説ではないけれどかなり変な話である。
 特に「花形作家」の不条理な物語はけっこうなインパクトだ。夫が書いた小説を妻が発表することで売れっ子になった夫婦の運命は……というものだが、今でも十分に、いや今だからこそ響く物語といえるかもしれない。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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