- Date: Sat 09 12 2017
- Category: 海外作家 ウィングフィールド(R・D)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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R・D・ウィングフィールド『フロスト始末(下)』(創元推理文庫)
R・D・ウィングフィールドの『フロスト始末』読了。
著者の遺作にしてフロスト警部シリーズの最終作ということで、もしやこれまでの作風とは少し趣も変わるかなと予想していたのだが、――実際、フロストの転勤というそれらしいサイドストーリーの展開、そして亡き妻の思い出というこれまでにない過去の回想シーンがあったりもするのだが――終わってみれば、やはりいつものフロスト警部シリーズであり、十分に楽しむことができた。

一番の魅力はやはりフロストをはじめとする登場人物と、彼らのやりとりにある。事件そのものへの興味より、捜査を通じて彼らが見せるドタバタに笑い、時折見せる人情ドラマにほろりとくる。
ただ、そんな面白さを支えるのは、登場人物たちをそういった状況に誘ってくれるモジュラー型の警察小説というスタイルであり、それをなし得るプロットの緻密さであるといってよい。おそらく一本道のストーリー、単独の事件というだけでは、ここまで面白い物語にはならないはず。
モジュラー型の警察小説は別にウィングフィールドの専売特許というわけではなく、もちろん過去に他の作家も書いてはいる。しかしながらウィングフィールドはフロスト警部シリーズでその分野を極めたといってもよく、モジュラー型警察小説の頂点という地位を不動のものにした印象である。
警察小説にもいろいろあって、主人公は一応、警察官ではあるが、その実は本格というようなタイプ(たとえばコリン・デクスターのモース警部のような)もあれば、一匹狼の刑事が自分の信念で突っ走るハードボイルドに近いもの(たとえばマイクル・コナリーのボッシュもののような)、あるいは主人公を一人に限定するのではなく、警察のチームによる捜査に主眼を置いたもの(たとえばエド・マクベインの87分署のような)など、さまざま。
まあ、一般には警察官が主人公であることは大前提としても、本当の意味での警察小説は、物語の根幹に警察という組織や警察官という職業にスポットをあてていることがポイントである。そういう意味ではモースやボッシュのシリーズは、決して警察小説ではない。
その点、チーム捜査によるモジュラー型を採用したフロスト警部シリーズは、実は警察小説としてはもっともリアル志向であり、王道といっても良いわけである。
ただ、このスタイルを駆使して作品を書き続けるというのはさぞや大変だったろう。
ひとつひとつの事件はそこまで複雑ではないけれども、事件同士の絡みやつながりがとにかく見事で、バランスや展開の仕方は圧巻である。よく収束できるものだと毎回感心するところで、ただ面白いだけの物語ではないと強調しておきたい。
なお、本作は年末の各種ミステリランキングでほぼ上位入賞を果たしているようだ。本作は確かに傑作なのだけれど、パターン自体はそれほど初期作品から変わらないだけに、いまだに一位とかに挙げるのはどうなんだろうなぁという気持ちになるのも事実。
まあ、遺作ということで、有終の美、みたいな意味合いで投票した人も多いのだろうが。
著者の遺作にしてフロスト警部シリーズの最終作ということで、もしやこれまでの作風とは少し趣も変わるかなと予想していたのだが、――実際、フロストの転勤というそれらしいサイドストーリーの展開、そして亡き妻の思い出というこれまでにない過去の回想シーンがあったりもするのだが――終わってみれば、やはりいつものフロスト警部シリーズであり、十分に楽しむことができた。

一番の魅力はやはりフロストをはじめとする登場人物と、彼らのやりとりにある。事件そのものへの興味より、捜査を通じて彼らが見せるドタバタに笑い、時折見せる人情ドラマにほろりとくる。
ただ、そんな面白さを支えるのは、登場人物たちをそういった状況に誘ってくれるモジュラー型の警察小説というスタイルであり、それをなし得るプロットの緻密さであるといってよい。おそらく一本道のストーリー、単独の事件というだけでは、ここまで面白い物語にはならないはず。
モジュラー型の警察小説は別にウィングフィールドの専売特許というわけではなく、もちろん過去に他の作家も書いてはいる。しかしながらウィングフィールドはフロスト警部シリーズでその分野を極めたといってもよく、モジュラー型警察小説の頂点という地位を不動のものにした印象である。
警察小説にもいろいろあって、主人公は一応、警察官ではあるが、その実は本格というようなタイプ(たとえばコリン・デクスターのモース警部のような)もあれば、一匹狼の刑事が自分の信念で突っ走るハードボイルドに近いもの(たとえばマイクル・コナリーのボッシュもののような)、あるいは主人公を一人に限定するのではなく、警察のチームによる捜査に主眼を置いたもの(たとえばエド・マクベインの87分署のような)など、さまざま。
まあ、一般には警察官が主人公であることは大前提としても、本当の意味での警察小説は、物語の根幹に警察という組織や警察官という職業にスポットをあてていることがポイントである。そういう意味ではモースやボッシュのシリーズは、決して警察小説ではない。
その点、チーム捜査によるモジュラー型を採用したフロスト警部シリーズは、実は警察小説としてはもっともリアル志向であり、王道といっても良いわけである。
ただ、このスタイルを駆使して作品を書き続けるというのはさぞや大変だったろう。
ひとつひとつの事件はそこまで複雑ではないけれども、事件同士の絡みやつながりがとにかく見事で、バランスや展開の仕方は圧巻である。よく収束できるものだと毎回感心するところで、ただ面白いだけの物語ではないと強調しておきたい。
なお、本作は年末の各種ミステリランキングでほぼ上位入賞を果たしているようだ。本作は確かに傑作なのだけれど、パターン自体はそれほど初期作品から変わらないだけに、いまだに一位とかに挙げるのはどうなんだろうなぁという気持ちになるのも事実。
まあ、遺作ということで、有終の美、みたいな意味合いで投票した人も多いのだろうが。
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コリン・デクスターは好きですよ。ブログスタート前にほぼ読み終えていたのでアップする機会がなかっただけですね。ただ、ラストの二冊『死はわが隣人』と『侮根の日』だけは未読です。当時、最終作のニュースが入ってきた時に読むのをためらってしまって、そのまま放置しています(笑)。
>すみません、本編と関係ない話ばかりで。
いえいえ、そういう話のほうが楽しかったりしますから、どうぞご遠慮なく。