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 ジョルジュ・シムノンの『片道切符』を読む。1942年に刊行されたノンシリーズ作品で、いわゆる心理小説と呼ばれるもの。
 シムノンはメグレ警視ものだけではなく、数多くの心理小説も残したが、そもそも心理小説とはフランス文学のお家芸みたいなもので、人間の心の微妙な綾を簡潔な文体で表現し、克明に分析しようとするのが特徴。この説明がそのままシムノンの小説の説明にも当てはまる。

 こんな話。
 殺人罪で逮捕され、仮釈放の身となったジャン。たいした目的もないままバスに乗り込んだが、そこで
同じバスに乗り合わせた中年の未亡人タチの荷物(孵卵器)運びを手伝ったことがきっかけで、そのままタチの家に下男として住み込むことになる。ジャンはタチの情夫となるが、そこにタチの姪フェリシーが現れて……。

 片道切符

 流れ者が女と知り合い、痴情のもつれから再び人を殺してしまう、ただ、それだけの物語。だが、殺す側にどういう理由があったのか、それが直接的に語られることはなく、シムノンはあくまで登場人物たちの行動からそれをイメージさせる。
 とりわけ主人公のジャンが無口なキャラクターであるため、彼が前科者であることや実は街の有力者の息子であることも最初は隠されており、そういった事実が少しずつ明らかになるたびに読む側としては軽くショックを受け、ジャンがどのような人間なのか想いを巡らせてしまうわけである。
 ただ、一見なんの希望もなく虚無的に見えるジャンだが、タチ&フェリシーとのやりとりやたまに差し込まれる過去の回想によって、実は重度のストレスを抱えていることも窺える。それが近い将来のカタストロフィを予想させ、良質の心理的サスペンスを生んでいくのだろう。
 シンプルだが、シムノンの上手さを再認識できる佳作である。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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