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  小泉喜美子の短編集『殺さずにはいられない』を読む。
 元版は青樹社がかつて新書版で出したものだが、それにリクルートの女性求人誌『とらばーゆ』(懐かしい!)に連載していたショートショート六編をボーナストラックとして加えたもの。青樹社版が入手難ということで出してくれるだけでもありがたいのだけれど、それに書籍初収録となるショートショートをつけるところなど、さすが日下氏の編集に抜かりはない。

 殺さずにはいられない

「尾行報告書」
「冷たいのがお好き」
「血筋」
「犯人のお気に入り」
「子供の情景」
「突然、氷のごとく」
「殺人者と踊れば」
「髪」
「被告は無罪」
「殺さずにはいられない」
「ミステリーひねくれベスト10」(エッセイ)
「客にはやさしく」
「投書」
「ボーナスを倍にする方法」
「ご案内しましょう」
「ありのまま」
「プロの心得教えます」

 収録作は以上。「尾行報告書」から「殺さずにはいられない」までが元版の短編、エッセイを一本はさみ、「客にはやさしく」以下が『とらばーゆ』連載のショートショートである。
 ちょっと気をつけておきたいのは、本書の元版は1986年の刊行だが、収録作品は1970年台の作品が中心だということ。小泉喜美子が亡くなったのは1985年なので没後の出版ということになるが、中身そのものはけっこう初期の作品なのである。
 ということは他の短編集にそれまで収録されなかった作品が中心ということであり、それはもしかすると作品の出来としてはいまひとつなのかなという不安もあったのだが。

 いやいや、いざ蓋を開ければなかなか悪くない。
 小泉喜美子が主張してきたことに、「ミステリは粋でなくてはならない」というものがあったが、それをきっちりと実践するような都会的で洒落た作品が多く収録されている。
 また、雰囲気だけでなく、ラストで物語の様相を反転させるような、どんでん返しを効かせたものが多いのも“粋”の部分であろう。最近のミステリのようにどんでん返しを重ねすぎたウザいところがなく、一発でスッキリとオチにもっていくところもむしろ好ましい。まあ、時代ゆえの古さはどうしてもあるけれど、全般的には楽しめる作品集である。

 印象に残った作品としては、まず「冷たいのがお好き」。友人に殺人方法をせがまれた推理作家の話だが、犯行の実現性からすると今では?つきではあるけれど、アイディアは面白いし、最後の捻りがいい味を出している。
 「突然、氷のごとく」は不倫に走る有閑マダムと貧乏青年。ここに脅迫男が入ってくることで、ある程度結末は予測できるけれど、終盤の展開が盛り上がる。
 「殺人者と踊れば」は個人的な本書中のベスト。オチもいいのだけれど、そこに至る過程の叙情性、美しさが素晴らしい。
 表題作「殺さずにはいられない」はネタとしてはそれほどのものではないが、これは語りの妙。味わい深さが光る一品。

 なお、ボーナストラック分はショートショートという性質上、他の作品と比べるとどうしても分が悪いのは仕方ないのだが(これは『とらばーゆ』という発表媒体の問題もあるだろう)、コントのような作品が多くて物足りなさが残った。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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