- Date: Sun 11 02 2018
- Category: 国内作家 大下宇陀児
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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大下宇陀児『自殺を売った男』(光文社)
大下宇陀児の『自殺を売った男』を読む。1958年に『週刊大衆』に連載され、同年に光文社から刊行されたものである。
まずはストーリー。
学生時代の万引きで身を持ち崩した四宮四郎。その原因となった麻薬から抜け出すこともできず、日々を無気力に生きるチンピラだった。そんな自分に愛想を尽かし、美容師の彼女とも別れて自殺するため伊豆へ向かった四宮。ところが自殺の直前、カップルに発見された四宮は一命を取りとめ、就職まで世話をされてしまう。
なりゆきに任せて気楽な生活に浸ってゆく四宮だったが、そこへ四宮を殺すように依頼されたという男が現れ、雲行きが怪しくなってくる。なんと男は、四宮を殺しはしないから自殺したことにしてほしいというではないか。しかも謝礼まで払うという。謝礼に目がくらんだ四宮はその話に乗るのだが……。

雑誌掲載時に著者自身が「名探偵が出てくるような本格探偵小説を書くつもりはなく、しいていえば倒叙探偵小説に近いがそれとも違う」というようなことを書いているのだが、別にミステリとしてそんなに凝った作品ではなく、要するに普通にサスペンスとして読めばよい。
もともと大下宇陀児は本格専門の書き手というわけではなく、サスペンスやスリラーなどが多かったわけだが、戦後は単なる娯楽作品から社会派・リアリティ重視へと移ってゆく。本作も基本的にはその流れを組む作品であり、戦後に流行ったアプレと呼ばれる無軌道な若者たちの生態に焦点をあて、その生き方や考え方、そして立ち直る姿を描いている。
ただ、思ったほどストーリーが弾けず、主人公が自殺を持ちかけられるあたりでようやく盛り上がってきたかと思うのだが、その後もいまひとつ盛り上がらないまま終わってしまうのは、単純にミステリとして物足りないところだ。
特に終盤の展開は、主人公が他の人間の報告を聞くような形でストーリーの重要な部分が進んでしまい、粗方の謎も解けてしまう始末。なんだか連載を早く終わらせなければならない事情でもあったのかと、思わず勘ぐってしまうレベルである。
そんななかで興味を惹かれたのは登場人物の造形。特に主人公とその恋人の描き方はまずまず面白い。
主人公は何をするにも中途半端で、そのときどきの感情で流されることがほとんど。更生もそれほど真面目には考えられないが、かといって徹底的な悪党にもなれないというキャラクター。その一方で主人公の彼女が教養はないのだけれど実行力がり、何より生きる力に溢れている。そのくせ駄目男の彼氏にはとことん尽くすという側面もあり、ああ、こういうダメンズ好きのしっかり女はこんな時代からいたのだなと思わず膝を打つリアリティである(笑)。
ミステリとしては弱いけれども、そういった当時の世相や若者像を垣間見る一冊としては悪くない読み物であった。
なお、本書は当然ながら絶版だが、昨年に光文社文庫から出た『大下宇陀児 楠田匡介 ミステリー・レガシー』に収録されているので、興味ある方はそちらでどうぞ。
まずはストーリー。
学生時代の万引きで身を持ち崩した四宮四郎。その原因となった麻薬から抜け出すこともできず、日々を無気力に生きるチンピラだった。そんな自分に愛想を尽かし、美容師の彼女とも別れて自殺するため伊豆へ向かった四宮。ところが自殺の直前、カップルに発見された四宮は一命を取りとめ、就職まで世話をされてしまう。
なりゆきに任せて気楽な生活に浸ってゆく四宮だったが、そこへ四宮を殺すように依頼されたという男が現れ、雲行きが怪しくなってくる。なんと男は、四宮を殺しはしないから自殺したことにしてほしいというではないか。しかも謝礼まで払うという。謝礼に目がくらんだ四宮はその話に乗るのだが……。

雑誌掲載時に著者自身が「名探偵が出てくるような本格探偵小説を書くつもりはなく、しいていえば倒叙探偵小説に近いがそれとも違う」というようなことを書いているのだが、別にミステリとしてそんなに凝った作品ではなく、要するに普通にサスペンスとして読めばよい。
もともと大下宇陀児は本格専門の書き手というわけではなく、サスペンスやスリラーなどが多かったわけだが、戦後は単なる娯楽作品から社会派・リアリティ重視へと移ってゆく。本作も基本的にはその流れを組む作品であり、戦後に流行ったアプレと呼ばれる無軌道な若者たちの生態に焦点をあて、その生き方や考え方、そして立ち直る姿を描いている。
ただ、思ったほどストーリーが弾けず、主人公が自殺を持ちかけられるあたりでようやく盛り上がってきたかと思うのだが、その後もいまひとつ盛り上がらないまま終わってしまうのは、単純にミステリとして物足りないところだ。
特に終盤の展開は、主人公が他の人間の報告を聞くような形でストーリーの重要な部分が進んでしまい、粗方の謎も解けてしまう始末。なんだか連載を早く終わらせなければならない事情でもあったのかと、思わず勘ぐってしまうレベルである。
そんななかで興味を惹かれたのは登場人物の造形。特に主人公とその恋人の描き方はまずまず面白い。
主人公は何をするにも中途半端で、そのときどきの感情で流されることがほとんど。更生もそれほど真面目には考えられないが、かといって徹底的な悪党にもなれないというキャラクター。その一方で主人公の彼女が教養はないのだけれど実行力がり、何より生きる力に溢れている。そのくせ駄目男の彼氏にはとことん尽くすという側面もあり、ああ、こういうダメンズ好きのしっかり女はこんな時代からいたのだなと思わず膝を打つリアリティである(笑)。
ミステリとしては弱いけれども、そういった当時の世相や若者像を垣間見る一冊としては悪くない読み物であった。
なお、本書は当然ながら絶版だが、昨年に光文社文庫から出た『大下宇陀児 楠田匡介 ミステリー・レガシー』に収録されているので、興味ある方はそちらでどうぞ。
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