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 結城昌治の短編集『あるフィルムの背景』を読む。
 古本ではなく、ちくま文庫で昨年十一月に出たばかりの新刊である。最近は戦前の探偵小説だけではなく、本書の結城昌治のように昭和の中頃から後期に活躍した作家のミステリもかなり復刊が目立つけれども、まあそれ自体は歓迎する話である。
 ただ、悲しいのは、こちらが子供の頃に普通に書店で見ていた本が復刊されるという事実(笑)。結城昌治なんて角川文庫の新刊が山のように本屋に並んでいた時代があるわけで、なぜそのときに買っておかなかったのだという悔恨ばかりが先にくる。

 とはいうものの、当時、山ほど結城昌治を読んでいたとしても、果たして純粋に楽しめたかどうかは疑問だ。
 実際、何冊かは十代の頃に読んでいるのだが、スパイものやハードボイルド系だったこともあって、正直その面白さがいま一つわからなかった。結城昌治の作品は思った以上にバラエティに富んだものらしいのだが、それでも有名な作品は犯罪小説やハードボイルド系のイメージが強く、その魅力を理解したのは中年の域に入ってからだった(苦笑)。
 だから、こっちがこうして年をくってから結城昌治の再評価の動きなどがあるのは、むしろタイミングとしてはちょうどよいのかなという気持ちである

 あるフィルムの背景

第一部
「惨事」
「蝮の家」
「孤独なカラス」
「老後」
「私に触らないで」
「みにくいアヒル」
「女の檻」
「あるフイルムの背景」
第二部
「絶対反対」
「うまい話」
「雪山賛歌」
「葬式紳士」
「温情判事」

 収録作は以上。 第一部は角川文庫で刊行された初期傑作を集めた同タイトルの短編集を丸ごと収録し、さらに第一部と同タイプの短編をオリジナルの第二部として収録したもの。
 ごく普通の人々がつい起こしてしまった犯罪、その原因となった動機、そしてその結果によって引き起こされる悲劇というのが共通する構図であろう。そのままだとブラックなサスペンスで終わりそうになるところを、きちんとオチを効かせることで、良質のミステリとして成立させている。
 まあ、オチ自体はそこまでトリッキーなものではないけれども、そこに至るまでの描写が鮮やかなせいか全体の印象としてテクニカルな印象を受け、満足度はなかなか高い。簡潔な文章も作品の雰囲気にマッチしていて好みである。
 全体的に水準は高いけれども、あえてマイ・フェイヴァリットを出すなら「惨事」、「孤独なカラス」、「みにくいアヒル」、「女の檻」、「雪山賛歌」、「葬式紳士」、「温情判事」あたりか。
 まずは安心してお勧めできる短編集といえるだろう。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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