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川野京輔『コールサイン殺人事件』(廣済堂ブルーブックス)
論創ミステリ叢書で夏頃に川野京輔の巻が出ると知って、長らく積んであった『コールサイン殺人事件』を手にとってみた。
本書自体は1994年に刊行されたノベルズで、カバーイラストもごらんのように当時のノベルス風だし、ぱっと見は普通に九十年代のミステリっぽい雰囲気を出しているのだが、この作者、実は五十年代に本業のかたわら探偵小説を雑誌『宝石』や『探偵実話』などに発表した経歴があり、本書はその時代の作品をまとめた短編集なのだ。つまり九十年代の刊行ながら中身だけは五十年代の探偵小説という、なかなか不思議な一冊なのである。いや有名な作家なら何の不思議もないのだが、ミステリ作家としてはほぼ無名の人だからなぁ。

「消えた街」
「団兵船の聖女(マドンナ)達」
「狙われた女」
「コールサイン殺人事件」
「彼女は時報に殺される」
「女性アナウサー着任せず」
「夜行列車殺人事件」
「青い亡霊」
収録作は以上。
著者はNHKに就職して、最初は広島・松江局に配属、続いて東京芸能局ラジオ文芸部に転属となり、ラジオドラマの演出などを担当した人だ。その後は退局してフリーとなり、ラジオドラマの脚本・演出を手掛けるかたわら、評論やノンフィクション系の著書も発表している。
そんな経験は作品にもダイレクトに活かされ、本書収録中の作品のほとんどが放送業界を舞台にしている。また、著者が勤務していた広島を舞台にしているものもいくつかあって、そういう得意な題材を上手く料理している印象である。
ただし、ミステリとしてはまずまずといったところだろう。普通小説とかに流されることなく、きちんと謎解きミステリのスタイルに仕上げているのは好感がもてる。だがいかんせんボリューム不足もあってそれほど凝った内容のものがなく、全体的には薄味にとどまっている。上で書いたように放送業界や広島の題材の扱い方がいいだけに、ちょっと惜しい感じである。
そんななか気に入った作品は、まずは「消えた街」。普通にこのネタをもってこられてもフーンという感じだろうが、舞台設定がしっかりした意味をもっており、著者がミステリ作家としてやりたいことが伝わる一作。ただ、ページ数が少なくてバタバタした展開、アンフェアな部分もあったりするのは残念。
単純な出来でいえば「団兵船の聖女達」が本書中のトップか。広島の風俗描写に加え、事件の構図が巧みである。ボリュームアップして人物描写などを膨らませることができれば、もっと面白くなるはず。こういうのは長編で読みたいぐらいだ。
「夜行列車殺人事件」もよろしい。こちらは「団兵船の聖女達」と異なり、純粋にミステリとして読ませる。古典的トリックがなかなか効いていて、意外性もあり。
ということで「団兵船の聖女達」、「夜行列車殺人事件」の二作で元はとれたかな。論創ミステリ叢書では本書『コールサイン殺人事件』のほか、あまとりあ社で刊行された『たそがれの肉体』も全編収録されているらしい。『たそがれの肉体』は幻想系の作品らしいので、これは期待しておきましょう。
本書自体は1994年に刊行されたノベルズで、カバーイラストもごらんのように当時のノベルス風だし、ぱっと見は普通に九十年代のミステリっぽい雰囲気を出しているのだが、この作者、実は五十年代に本業のかたわら探偵小説を雑誌『宝石』や『探偵実話』などに発表した経歴があり、本書はその時代の作品をまとめた短編集なのだ。つまり九十年代の刊行ながら中身だけは五十年代の探偵小説という、なかなか不思議な一冊なのである。いや有名な作家なら何の不思議もないのだが、ミステリ作家としてはほぼ無名の人だからなぁ。

「消えた街」
「団兵船の聖女(マドンナ)達」
「狙われた女」
「コールサイン殺人事件」
「彼女は時報に殺される」
「女性アナウサー着任せず」
「夜行列車殺人事件」
「青い亡霊」
収録作は以上。
著者はNHKに就職して、最初は広島・松江局に配属、続いて東京芸能局ラジオ文芸部に転属となり、ラジオドラマの演出などを担当した人だ。その後は退局してフリーとなり、ラジオドラマの脚本・演出を手掛けるかたわら、評論やノンフィクション系の著書も発表している。
そんな経験は作品にもダイレクトに活かされ、本書収録中の作品のほとんどが放送業界を舞台にしている。また、著者が勤務していた広島を舞台にしているものもいくつかあって、そういう得意な題材を上手く料理している印象である。
ただし、ミステリとしてはまずまずといったところだろう。普通小説とかに流されることなく、きちんと謎解きミステリのスタイルに仕上げているのは好感がもてる。だがいかんせんボリューム不足もあってそれほど凝った内容のものがなく、全体的には薄味にとどまっている。上で書いたように放送業界や広島の題材の扱い方がいいだけに、ちょっと惜しい感じである。
そんななか気に入った作品は、まずは「消えた街」。普通にこのネタをもってこられてもフーンという感じだろうが、舞台設定がしっかりした意味をもっており、著者がミステリ作家としてやりたいことが伝わる一作。ただ、ページ数が少なくてバタバタした展開、アンフェアな部分もあったりするのは残念。
単純な出来でいえば「団兵船の聖女達」が本書中のトップか。広島の風俗描写に加え、事件の構図が巧みである。ボリュームアップして人物描写などを膨らませることができれば、もっと面白くなるはず。こういうのは長編で読みたいぐらいだ。
「夜行列車殺人事件」もよろしい。こちらは「団兵船の聖女達」と異なり、純粋にミステリとして読ませる。古典的トリックがなかなか効いていて、意外性もあり。
ということで「団兵船の聖女達」、「夜行列車殺人事件」の二作で元はとれたかな。論創ミステリ叢書では本書『コールサイン殺人事件』のほか、あまとりあ社で刊行された『たそがれの肉体』も全編収録されているらしい。『たそがれの肉体』は幻想系の作品らしいので、これは期待しておきましょう。