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フランク・グルーバー『噂のレコード原盤の秘密』(論創海外ミステリ)
フランク・グルーバーの『噂のレコード原盤の秘密』を読む。ジョニー・フレッチャーとサム・クラッグのコンビが活躍する軽ハードボイルド・シリーズの一冊。

ジョニーとサムの二人はシリーズものミステリの主人公でありながら、探偵でも警官でもない。ましてや新聞記者でも弁護士でも怪盗でもない。なんとジョニーの職業はボディ・ビルの本を売ることである。といっても書店や出版社をやっているわけではない。ジョニーが自分で書いたボディ・ビルの本を、街頭で売るのである。いわばテキ屋だ。
ジョニーは口も達者で頭の回転も速い。その話術でお客を煙に巻いては本を売るのだが、その際、役に立つのが筋肉男の相棒、サム・クラッグ。つまり彼はボディビル本を売るための生きた見本なのである。
しかし、所詮は浮き草稼業。その日の生活費を稼ぐため、ときには犯罪すれすれ詐欺まがいのこともやるジョニーなので、往々にして事件に巻き込まれてしまいがち。結局は自分で事件を解明するはめになる……というのがシリーズに共通する主な骨子である。
そこで本作。ジョニーとサムが常宿としているホテルで、若い女性が部屋で殺されるという事件が起きる。事件のカギを握るのはどうやらレコードの原盤にあるらしいのだが……。
一方、ジョニーとサムの二人はすっかり文無しでホテルから追い出される寸前というありさま。ジョニーは勝手にサムの服まで質に入れたため、サムはベッドから出ることもできない始末である。ジョニーは仕方なく金策に駆けずり回るが、そんな二人がなぜか、くだんのレコード原盤を手に入れてしまい……という一席。
本作の魅力が、登場人物たちの掛け合いにあるというのは異論がないところだろう。とはいえ読みどころがそこしかないというわけではない。実はミステリの本質の部分、つまり不可解な事件の謎を解くという部分が意外にしっかり盛り込まれているのである。
もちろん軽ハードボイルドというスタイルが覆るほど、本格顔負けのトリックやロジックがあるわけではなく、ザクッとしたものではある。だが作品のテイストから想像するレベルは越えており、適当に読んでいると、前の方のページを見直すぐらいには複雑である。それがユーモアと相まって、ありそうでなさそうなポジションをとることができたように思う。
ラストではジョニーが臨時株主総会と称し、関係者一同を集めての謎解きを行うが、これなども本格のパロディというよりは、実は普通に作者がミステリとして書きたかったシーンなのではないかという気もするのである。
後年、ネオ・ハードボイルドの中にはこういうタイプの作品もけっこう登場してきたが、フランク・グルーバーはその先駆けといえるのかもしれない。時間潰しとしてはある意味最強である。

ジョニーとサムの二人はシリーズものミステリの主人公でありながら、探偵でも警官でもない。ましてや新聞記者でも弁護士でも怪盗でもない。なんとジョニーの職業はボディ・ビルの本を売ることである。といっても書店や出版社をやっているわけではない。ジョニーが自分で書いたボディ・ビルの本を、街頭で売るのである。いわばテキ屋だ。
ジョニーは口も達者で頭の回転も速い。その話術でお客を煙に巻いては本を売るのだが、その際、役に立つのが筋肉男の相棒、サム・クラッグ。つまり彼はボディビル本を売るための生きた見本なのである。
しかし、所詮は浮き草稼業。その日の生活費を稼ぐため、ときには犯罪すれすれ詐欺まがいのこともやるジョニーなので、往々にして事件に巻き込まれてしまいがち。結局は自分で事件を解明するはめになる……というのがシリーズに共通する主な骨子である。
そこで本作。ジョニーとサムが常宿としているホテルで、若い女性が部屋で殺されるという事件が起きる。事件のカギを握るのはどうやらレコードの原盤にあるらしいのだが……。
一方、ジョニーとサムの二人はすっかり文無しでホテルから追い出される寸前というありさま。ジョニーは勝手にサムの服まで質に入れたため、サムはベッドから出ることもできない始末である。ジョニーは仕方なく金策に駆けずり回るが、そんな二人がなぜか、くだんのレコード原盤を手に入れてしまい……という一席。
本作の魅力が、登場人物たちの掛け合いにあるというのは異論がないところだろう。とはいえ読みどころがそこしかないというわけではない。実はミステリの本質の部分、つまり不可解な事件の謎を解くという部分が意外にしっかり盛り込まれているのである。
もちろん軽ハードボイルドというスタイルが覆るほど、本格顔負けのトリックやロジックがあるわけではなく、ザクッとしたものではある。だが作品のテイストから想像するレベルは越えており、適当に読んでいると、前の方のページを見直すぐらいには複雑である。それがユーモアと相まって、ありそうでなさそうなポジションをとることができたように思う。
ラストではジョニーが臨時株主総会と称し、関係者一同を集めての謎解きを行うが、これなども本格のパロディというよりは、実は普通に作者がミステリとして書きたかったシーンなのではないかという気もするのである。
後年、ネオ・ハードボイルドの中にはこういうタイプの作品もけっこう登場してきたが、フランク・グルーバーはその先駆けといえるのかもしれない。時間潰しとしてはある意味最強である。
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