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 若い頃、といっても既に三十は超えていたが、ハードボイルドや犯罪小説、冒険小説の類ばかり読んでいた時期があった。その頃流行していたネオ・ハードボイルドなどを中心にしゃかりきになって読んでいたものだが、なぜか肝心要のロス・マクドナルドだけは縁がうすく、数冊読んでそれっきりになっていた。
 とはいえロス・マクといえばハメットやチャンドラーと並ぶハードボイルド御三家の一人。ハードボイルド好きであれば全冊読破は当然のことであり、今年こそは読もうかと思いつつも結局はそれっきりになるというのは、まあありがちな話ではある。
 ところが先日、なんと創元推理文庫でリュー・アーチャーものの第一作『動く標的』が新訳された。おお、それはいい。おそらくこのタイミングを逃すと、もう本当に死ぬまで読まないんじゃないかという気もして、ようやく長年の宿題であったロス・マク読破計画を決断した次第である。

 というわけで、本日の読了本はロス・マクドナルドの『動く標的』。ン十年ぶりの再読となる。

 動く標的(新訳)

 まずはストーリー。
 私立探偵リュー・アーチャーが呼ばれたのはテキサスの石油王ラルフ・サンプスンの大邸宅。依頼主は夫人のエレイン。彼女は空港で失踪した夫のラルフを見つけ出してほしいという。
 さっそく調査を開始したアーチャーは、サンプスンの部屋でかつての人気女優フェイの写真を見つけ、それを糸口にサンプスンの人間関係を追ってゆく。ところがそこへサンプスンから夫人の元へ十万ドルを送ってほしいという手紙が届く。果たしてそれは本当にサンプスン自身が書いた手紙なのか。アーチャーは事件の背景に組織犯罪が関与していると考え、誘拐の線で調査を進めてゆくが……。

 前回に読んだときの記憶はもはや曖昧なのだけれど、今回読んでまず思ったのは、アーチャーが想像以上に若々しいこと。物語ももっと暗く静のイメージがあったのだけれど、けっこう西海岸風のカラッとしたハードボイルドである。何よりアーチャーがよくしゃべりよく動く。減らず口も多いし、そのせいで自らトラブルを招くこともあり、アクションシーンもてんこ盛りである。
 そういう意味では、本作はまだまだチャンドラーの影響が色濃く残っており、いわゆる後期ロス・マクドナルドのシリアスで陰鬱な作風を期待すると当てが外れるだろう。

 ただし、これはこれで悪い作品ではない。
 事件の複雑さや登場人物たちのこじれた関係など、後期を彷彿とさせる要素もここかしこに感じられるし、アーチャーにしてもストイックな姿勢が(まだ甘さは感じられるけれども)いかにもこの時代のハードボイルドらしくて魅力的だ。
 犯行のいくつかが雑すぎること、ラストのあっけなさなど気になる点はあり、後期作品に比べると確かに分は悪いだろうが、まずはリュー・アーチャーの初登場を温かい目で味わいたい、そんな一作である。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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