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 J・S・フレッチャーの『亡者の金』を読む。著者は英米ミステリの黄金時代、特に初期の頃に活躍した作家だが、本格テイストは少なく、ストーリーで読ませるタイプ。それだけに一般読者には相当な人気があったようで、その作品数は120作以上。我が国でも一時期はさかんに紹介されていた。

 こんな話。
 弁護士事務所で事務員として働くヒュー青年。一緒に暮らす母親は下宿屋を営んでおり、そこにあるとき部屋を借りたいという老人ギルバースウェイトが現れた。素性を明かさないところは気になったが、払いに対しては気前がよく、母親は嬉々として部屋を貸すことにする。
 そんなある日、ギルバースウェイトはヒューにひとつのお願いをする。ある場所へいって、そこに現れた男に伝言を伝えてほしいというのだ。怪しげではあったが高額な謝礼に依頼を引き受けるヒュー。しかし、その場所でヒューが見たのは見知らぬ男の死体だった。あわてて警察に知らせ、ようやく帰宅したヒューだったが、今度は自宅でギルバースウェイトが死んでいた。いったいこの小さな町で何が起こっているのか? ヒューは雇い主の弁護士リンゼーとともに行動を起こすのだが……。

 亡者の金

 戦前探偵作家のエッセイやミステリのガイドブック等で名前だけは昔から知っているフレッチャーだが、読むのはこれが初めて。ひと頃は、といっても何十年も前の話ではあるが、けっこうな人気があった作家なのでそれなりに期待はしたのだが。
 ううむ、これはちょっと厳しい。以前は人気があったということだが、これは逆にいうと、いまは人気がないということでもある。やはり人気がなくなるからにはそれなりの理由があるのだなと実感した。

 とにかくまずいのは、ストーリーの盛り上げばかりを優先するあまり、その他の面がすべておざなりになっていること。
 特に目立つのは登場人物の造型や描き方が弱いことか。いかにもステレオタイプといった深みのないキャラクターに加え、場を盛り上げるためだけに登場人物を動かすので、その行動に説得力がない。感情だけで動くとか、そういうことではない。単純に登場人物の行動原理が不自然であり、動機付けの不明な点が多いのである。
 とりわけひどいのは主人公の青年ヒュー。事件の要所要所でそれだけはやってはいけないというようなことをなぜかやってしまい、事件をよけい混乱させる。
 ストーリーありきのミステリであっても全然かまわないのだけれど、そういう展開になる説明はほしいし、ストーリー上の必然性だってほしいではないか。

 まあ、人間が描けてないとか、ストーリーが行き当たりばったりだとかは、多作家の弱点としてよく言われることだが、それをここまで体現している作品だとは思わなかった(苦笑)。書かれた時代も時代だし、この手の大衆小説にそこまで求めても仕方ないのだろうけれど、それにしてもなぁ。
 ちなみに犯人なども早めに予想がつくけれど、ひとつだけラストに衝撃の展開があって、ここがなかったらもっとひどい感想になっていたかもしれない。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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