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 ロス・マクドナルドの『魔のプール』を読む。私立探偵リュー・アーチャーものの第二作目である。

 まずはストーリー。
 アーチャーの事務所を訪ねてきたのは劇団を営むジェイムズ・スロカムの妻、モード。自分の浮気を告発する脅迫状に悩まされているという彼女だが、アーチャーにはなかなか詳細を語りたがらない。それでも興味をもったアーチャーは、しぶる彼女を無理やり説得してスロカム家に入り込む。
 家のすべてを取り仕切る姑のオリヴィア、変人のジェイムズ、反抗期の娘キャシー、スロカム家の元運転手で女たらしのパット、ジェイムズの親友以上の存在に思えるマーヴェルなど、誰もが一癖も二癖もありそうな連中が集まる中、ついに悲劇が起こり、その背後には単なる不倫を超える陰謀が……。

 魔のプール

 『動く標的』と同様、後期の作品ほどの深みはまだ感じられない。というか、アクション性の強さなどは『動く標的』以上。水責めからの脱出など、まるで007じゃないかかと思うぐらいのシーンもあったりで、まあ激しいのなんの。
 やはりこの時期はいろいろと方向性を模索していたのかなというのが第一印象で、その証拠というわけでもないが、これだけアクションも打ち出しながら、一方では家族の問題やプロットの複雑さといった要素もすでに顕著なのである。

 ただ残念ながら、その両者がうまく融合していない。著者の見ているものが社会悪にあるのか、それとも家族の悲劇にあるのかが整頓されていないのである。
 序盤に展開されるのは家族にかかる問題である。ところがその陰にあるのは、実はもっと大きな組織的陰謀であった……というのはよくある話である。ロス・マクドナルドは最終的にそれをまた家族の問題に戻すのだが、それすら今時のミステリでは珍しくはない(同じハードボイルド系の作家ではマイクル・コナリーなどもけっこうやったりする)。そういうプロット自体はいいのだけれど、それがきれいにストーリーとして落とし込まれていないというか、どうにもつなぎの手際が悪い。
 特に終盤はけっこうなどんでん返しも含んでいるのにそこまで驚けないのは、段取りが悪いこともあるし、何より謎の中心をどこにおくのか、それを著者自身が決めかねていたからではないだろうか。
 まとめ。激しく生きのいいリュー・アーチャーの姿は興味深く読めるが、傑作というにはまだまだといったところ。

 蛇足ながら、『動く標的』は新訳版を読んだせいか、やはり本書は翻訳の古さがところどころで気になってしまった。地の文はそうでもないのだが、やはり会話が辛くて、「おおきに」、「~しちまう」あたりが出るとがっくりきてしまう(苦笑)。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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